緑膿菌

Volume 8, No. 1

FEATURE ARTICLE - PSEUDOMONAS

2005年に起こったフザリウム角膜炎とアカントアメーバ角膜炎のアウトブレークが発端になり、2つのマルチパーパスソリューション、Bausch + Lomb社のRenu with MoistureLocとAMO社のComplete Moisture Plusの大規模なリコールに発展しました。この事件により、コンタクトレンズ関係の学会では活発な議論が起こり、研究熱が高まり、新しいマルチパーパスソリューションの開発につながりました。ここ数ヶ月のニュースレターで関連する記事を書いています。

今月もコンタクトレンズによる角膜感染症について説明しますが、今回は緑膿菌による感染です。緑膿菌角膜感染症は最も恐ろしい細菌感染の一つです。

緑膿菌とは?
先月のニュースレターでアカントアメーバは原生動物であると解説しましたが、緑膿菌はまったく違った微生物です。原生動物よりも小さく単純な形態をしている細菌の一つです。他の多くの細菌と同様に角膜炎などの多くの疾患の原因になります。

緑膿菌は小さい棒のような形状をしていて(桿菌といいます)、長さは約4μmです。対になっていることもよくあり、鞭毛を使って移動します。また線毛と呼ばれる小さなスパイク状のものを持ち、それは緑膿菌が何かの表面に付着するためのものです。緑膿菌は緑色の色素を作り出し、色素は感染した組織中に見られることがあります。緑膿菌のコロニーはムコ多糖体のカプセルを作り、抗菌剤から自身を守ります。緑膿菌は、土や水、タオル、病院の医療機器のような湿ったものなどどこにでも存在します。

角膜感染の他にも緑膿菌は体の他の部位にも深刻な感染を引き起こします。たとえば、

  • 皮膚病
  • 耳感染症
  • 肺炎
  • 尿路感染症
  • 腸感染症

緑膿菌はどこにでも存在していますので、われわれはいつも緑膿菌に曝されているといえます。しかし通常は健康な人には感染したり、病気の原因にはなりません。組織障害がある場合や免疫系が弱い人に深刻な感染を引き起こします。緑膿菌は次のような病気の原因になります。

  • 熱傷による組織の壊死
  • 術後感染症
  • 癌やAIDS患者の感染症
  • その他の院内感染

緑膿菌は頑丈な微生物です。多くの抗生物質に耐性があり、厳しい環境下でも死滅しません。低温であったり、ガソリンの中であっても死滅しないのです。人間への感染の他に次のものにも影響があります。

  • 動物の感染症
  • 植物の感染症
  • 食品の腐敗 (牛乳、えび、果物、野菜など)
  • 燃料タンク内の腐敗

コンタクトレンズに起因する緑膿菌感染症
コンタクトレンズの合併症のなかで最も深刻なものは微生物の感染であり、感染を起こす微生物にはアカントアメーバ、真菌、細菌、ウィルスなどが挙げられます。中でも最も多いコンタクトレンズに起因する角膜感染症の原因は、緑膿菌です。アメリカでは1年間でソフトコンタクトレンズ使用者の10,000人中3人が緑膿菌感染症に罹ります。発症率はシリコーンハイドロゲルと従来素材のソフトコンタクトレンズでほぼ同じですが、シリコーンハイドロゲルのほうが、回復が早い傾向があります。ハードコンタクトレンズでは10,000人に1人の割合で、ソフトコンタクトレンズよりも発症率は低いです。連続装用をすると終日装用の10倍の発症率になり、夜間の装用日数を増やせば危険率は増加していきます。LASIK術後の視力低下の確率が10,000人中500名であることから比較すると、緑膿菌感染症の発症率は非常に低いといえます。コンタクトレンズを使用していない人であれば、基本的に緑膿菌感染症の危険はありません。健康な角膜には緑膿菌から守る複数の防衛機構があるからです。緑膿菌はコンタクトレンズ消毒剤認可の条件であるスタンドアローンテストに用いる5種類の微生物の一つですので、FDAで認可された消毒剤やマルチパーパスソリューション(MPS)は緑膿菌を殺す力を持っています。2011年8月のニュースレターにFDAの承認プロセスとスタンドアローンテストについて書きましたので、参考にしてください。

緑膿菌角膜感染症の所見と症状
緑膿菌角膜感染症の初期症状は他の角膜感染症と違いはありません。最初は目の不快感と充血があり、数時間もすると痛み、羞明、が出てきます。化膿性滲出液、角膜浸潤、眼瞼の腫れ、視力不良などの症状がでてきます。

緑膿菌は非常に毒性が強く、極端な場合、24時間以内に角膜潰瘍、角膜穿孔、眼自体の破壊が起こることもありあます。通常は抗生物質を用いて治療しますが、適切な抗生剤を用いることと早期に治療開始することが重要です。緑膿菌感染症の約1%には角膜移植が必要になります。

緑膿菌に対する自然の防御機構
緑膿菌はコンタクトレンズ使用者に重篤な感染症をもたらしますが、コンタクトレンズを使用していない眼には通常感染することはありません。眼は、以下に挙げた防御機構で緑膿菌をはじめ微生物の感染を防いでいます

  • 眼瞼および瞬目反射により、異物や病原体が眼に入ることを防ぎます。
  • 瞬目や涙液によりデブリスや病原菌を除去します。
  • 涙液中には抗菌作用のあるたんぱく質が含まれています。
  • 涙液膜のムチン層が眼表面に緑膿菌が付着するのを防ぎます。眼表面に付着しなければ感染することはありません。
  • 緑膿菌をはじめ他の細菌は角膜上皮細胞の間のタイトジャンクションから侵入することはできません。
  • 角膜上皮細胞は緑膿菌や他の細菌を食菌することができます。
  • 免疫機構

教科書には緑膿菌は日和見細菌であると書かれています。それは、健康な眼には感染しないが、組織に障害や傷などがあった場合には感染する可能性があるという意味です。角膜に対しても障害や傷がなければ感染を起こしません。さらに、感染するためには角膜表面へ付着する必要がありますが、眼の自然防御機構が眼表面への付着を防いでいます。

なぜコンタクトレンズが感染の危険性を増やすのか?

コンタクトレンズは次に挙げた3点により眼を緑膿菌に感染しやすくしてしまいます。

  • コンタクトレンズを適切に洗浄・消毒しなかった場合、緑膿菌はコンタクトレンズ上やコンタクトレンズケース内で増殖します。
  • コンタクトレンズ装用によって涙液の流れや涙液膜のムチン層が影響されます。そのことにより、緑膿菌が角膜表面に付着してしまう可能性がでてきます。
  • コンタクトレンズ装用により角膜が低酸素状態になり、角膜生理が阻害されます。すると角膜表面に断裂が生じて角膜内部へ侵入する可能性がでます。

一度角膜に侵入すると、緑膿菌は急速に増殖します。緑膿菌は毒素と酵素を産生して角膜組織を破壊します。角膜実質まで菌が入り込めば、急速に広がります。

緑膿菌感染を防ぐには
先月のニュースレターに書いたアカントアメーバの予防方法がそのまま緑膿菌や他の細菌にも当てはまります。コンタクトレンズに起因する感染症の予防法の鍵は、患者教育と適切なレンズケアです。患者が次に示すことを実践してくれれば、コンタクトレンズに起因する感染症について心配する必要はなくなるでしょう。

  • コンタクトレンズを扱う前に必ず石鹸と清潔な水で手を洗うこと。
  • コンタクトレンズ用のソリューション以外の水をコンタクトレンズに触れさせないこと。
  • どのコンタクトレンズケア用剤を使用するべきかと、その適切な使用方法を指導すること。
  • こすり洗いとすすぎの重要性を指導すること。
  • 使用済みのコンタクトレンズケア用剤は毎日レンズケース内から廃棄すること。
  • コンタクトレンズの使用期間に従い、コンタクトレンズを廃棄し、新しいものと交換すること。
  • 2~3ヶ月ごとにコンタクトレンズケースを新しいものに交換すること。

さらに、医師が連続装用を許可していない場合、就寝中や夜間にコンタクトレンズを装用してはいけません。私は、毎日コンタクトレンズがはずせてケアができる患者には連続装用の許可を与えません。コンタクトレンズを装用したときに痛みを伴う充血が生じた場合、コンタクトレンズをすぐにはずし、できるだけ早く医師の診察を受けてください。

CONTACT LENS AND EYE CARE NEWS

World Sight Day (2013年10月10日)
10月の第2木曜日はWorld Sight Dayです。World Sight Dayは、失明や視覚障害を予防するために世界中でアイケアの必要性を認識してもらうために行われているイベントです。この国際的なイベントは、世界保健機構(WHO)に属する失明予防のための国際機関によって運営されています。世界中の医療、慈善、教育、産業に関する組織が2013年10月10日に結集し、発展途上国の失明や視覚障害を予防するための資金を集めました。私が働くNortheastern State University College of Optometry の学生たちもそのイベントに参加しましたし、クーパービジョンは世界中の従業員から寄付金を集め、$100,000を寄付しました。今年のWorld Sight Dayは10月9日です。

Avira Toric の度数範囲拡大
アメリカではBiofinityとAviraの2種類のシリコーンハイドロゲルレンズがクーパービジョンから販売されています。Biofinityは1週間の連続装用が可能な1ヶ月交換(日本では2週間交換で連続装用はできません)のレンズです。Aviraは2週間交換の終日装用レンズで、紫外線をブロックします。クーパービジョンはAvira Toricの度数範囲を拡大しました。現在、球面度数は+6.00D~-10.00D、円柱度数は-0.75D,-1.25D,-1.75D,-2.25Dで、円柱軸は10度刻みで処方可能です。Avira Toricはアメリカで最も度数範囲の広い2週間交換のシリコーンハイドロゲルトーリックレンズです。

AMOの新しいアベロメータ(波面センサー)、 iDesign Dx
AMOは、長年の研究開発期間をかけた新世代の波面センサー/角膜トポグラフィ、iDesign Dxを発売することを発表しました。iDesign Dxは角膜トポグラフィを内蔵した超高解像度波面センサーです。角膜トポグラフィを内蔵することにより、眼全体、角膜、角膜以外の屈折と高次収差を測定することができます。これは高解像度の角膜および眼光学系のデータを必要とする屈折矯正術を行う眼科医を対象に販売されます。iDesign Dxは、世界中で波面収差研究に使用されていて、私もNSUで使用しているCOASを作ったエンジニアチームが開発したものです。iDesign Dxの写真や動画はこのウェブサイトで見ることができます。
http://www.multivu.com/mnr/64467-abbott-idesign-dx-system-available-for-opthalmologists-and-patients

 

BASIC CLINICAL TECHNIQUE - Finding the spherical endpoint

視力不良の最も多い原因は屈折異常の未矯正です。そしてそれは眼鏡やコンタクトレンズで容易に矯正することができます。屈折異常を正確に検査することは眼科診療を行う上で最も重要な検査であるといえます。先月のこのコーナーで自覚的屈折検査の概略について説明しました。今月はさらに詳しく説明をしようと思います。ただし、説明するのは通常の患者に対する検査方法であり、不正乱視などがある眼や矯正が困難な例には別な方法が必要になることを気に留めておいてください。

自覚的屈折検査の概略
自覚的屈折検査は次の手順で行います。詳しくは先月のニュースレターを参照ください。

  1. 屈折異常の推測
  2. 片眼ずつの自覚的屈折検査
  3. 両眼バランス
  4. 近方加入度数の推測
  5. トライアル装用して確認

正しい球面度数を見つける
今月は自覚的屈折検査の手順を見直しますが、それは上記の概略の2に含まれる内容で、正しい球面度数を測定する方法です。正確に測定した球面度数を使えば、無調節の状態で遠方から来た光が網膜上にクリアな像を作ります。

問題は調節
乱視が適切に矯正されていれば、球面度数を正確に合わせることで最良の視力が得られます。したがって、単純に患者が最もよく見える球面度数を探せば、すなわち正しい球面度数ということになり、非常に簡単なように思えます。しかし、眼には調節の機能がありますので、実はそれほど単純ではないのです。調節とは、ご存知のとおり、近くの物に焦点を合わせる眼の機能です。調節が働けば眼は屈折異常の度数よりも近視側に変化します。遠方の屈折異常を検査しているときでも無意識に調節が入ってしまうことがあります。調節が入ると、眼の屈折状態を近視側に変化させてしまいます。もしそれに気がつかなければ、近視度数を強く検査してしまいます。このように調節が屈折に影響を与えてしまいますので、屈折検査の時には調節をコントロールする必要があります。つまり、調節の介入を防ぐということです。それには雲霧法と毛様体筋麻痺の2つの方法があります。

雲霧法
雲霧法を行うには、まず遠方視のときの球面度数を推測し、その度数の検眼レンズを患者にかけさせ、視力表の1.0あたりの段を見させます。そして、

  • ゆっくりとプラスパワーを加えていき、視力表の0.5~0.7の段も見えない状態にします。
  • 患者にその段を数秒間見させて、ぼけていることを確認します。
  • 徐々にマイナスパワーを加えていき、1.0(訳注:アメリカでは1.0を基準にすることが多いようです)の段にある視標がかろうじて見える度数にします。
  • さらに-0.25Dを加えて、視力が向上するかどうかを確認します。
  • さらに-0.25Dを加えて、視力がさらに向上するかを確認します。また、患者に視標が小さくなったか、黒くなったかを聞き、もしそうであれば、マイナスパワーが強すぎるということです。視力が向上して、視標が小さくも黒くもならないならそれが最終的な球面度数ということになります。

毛様体筋麻痺
場合によっては、毛様体筋を麻痺させて調節の介入を防ぐために、トロピカミドやアトロピンのような点眼剤を使用することもあります。点眼によって調節をできなくすると、正しい球面度数を測定することは簡単になります。単純に最良の視力が得られるようになるまで球面度数を調整すればよいのです。もし疑問があるとすれば、毛様体筋麻痺剤を使用しているときに雲霧法を利用することもできます。通常それは必要ありません。
毛様体筋麻痺剤を使用しなくても調節ができない患者もいます。60歳以上の高齢者であれば、理論的には調節力がありません。この場合も屈折検査で正しい球面度数を測定することは簡単です。
これらの手順が終了すると、屈折検査の概略の3、両眼バランスの検査に進みます。

(翻訳: 小淵輝明)

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