REVIEW OF NEWSLETTER TOPICS, 2007-2013
このニュースレターの第1 号は2007 年の6 月に発行され、今月の最新号が第75 号ということになります。
毎月の特集記事(トピック)の他に、コンタクトレンズ関連のニュース、学術記事の要約・まとめ、学会レポー
トなども書いてきました。これまで書いてきた特集記事を表にまとめました。この中に皆さんの興味のある内
容があれば、クーパービジョン・ジャパンの医療従事者向けのウェブサイトから読むことができます。
発行年 | Vol. / No. | 特集記事 |
2007 | Vol.1/No.1-4 | 波面収差 |
2007-2008 | Vol.1/ No.5-6, Vol.2/ No.1-6 | コンピュータビジョン症候群(CVS) |
2008 | Vol.2/ No.7-8 | スポーツビジョン |
2008 - 2009 | Vol.2/ No.9-11, Vol.3/ No.1-2 | ドライアイ |
2009 | Vol.3/ No.3 | コンタクトレンズ講座:涙液と眼瞼 |
2009 | Vol.3/ No.4 | コンタクトレンズ講座:角膜と結膜 |
2009 | Vol.3/ No.5 | コンタクトレンズ講座:角膜トポグラフィ |
2009 | Vol.3/ No.7 | コンタクトレンズ講座:製造工程 |
2009 | Vol.3/ No.8 | コンタクトレンズ講座:ソフトコンタクトレンズ素材 |
2009 | Vol.3/ No.9 | コンタクトレンズ講座:シリコーンハイドロゲルレンズ |
2009 | Vol.3/ No.10 | コンタクトレンズ講座:装用方法の分類 |
2009 | Vol.3/ No.11-12 | コンタクトレンズ講座:ソフトコンタクトレンズフィッティング |
2010 | Vol.4/ No.1 | コンタクトレンズ講座:トーリックソフトコンタクトレンズの処方 |
2010 | Vol.4/ No.2-5 | コンタクトレンズ講座:ハードコンタクトレンズフィッティング |
2011 | Vol.5/ No.2 | 世界のコンタクトレンズ処方状況 |
2011 | Vol.5/ No.3 | 季節性アレルギー性結膜炎 |
2011 | Vol.5/ No.8 | ソフトコンタクトレンズ消毒剤の有効性試験 |
2011 | Vol.5/ No.9 | オプトメトリストへのコンタクトレンズ教育 |
2011 | Vol.5/ No.10 | コントラスト感度 |
2012 | Vol.6/ No.4 | LogMAR 視力 |
2012 | Vol.6/ No.8 | 北海道視能研究会での講演(屈折、輻輳、調節) |
2012 | Vol.6/ No.11-12 | 波面収差測定と涙液層 |
2013 | Vol.7/ No.1 | 海外のコンタクトレンズ情報、小児への眼鏡処方 |
2013 | Vol.7/ No.2 | 吉川義三先生の功績 |
2013 | Vol.7/ No.3 | 世界のコンタクトレンズ処方状況 |
2013 | Vol.7/ No.5 | アメリカの学会誌情報、球面収差を利用したモディファイドモノビジョン |
2013 | Vol.7/ No.9 | アメリカの新しいMPS |
2013 | Vol.7/ No.11 | 過酸化水素消毒システム |
2013 | Vol.7/ No.12 | アカントアメーバ |
者からのご提案があり、今年の夏から新人スタッフの方にも役立つ基本的な臨床手順に関する記事も書く
ようになりました。これまでの記事を表2 にまとめました。もし、このニュースレターに関するご要望、ご意
見などがありましたら、遠慮なくお知らせください。
発行年 | Vol. / No. | 記事 |
2013 | Vol.7/No.8 | 涙液膜破壊時間(T-BUT) |
2013 | Vol.7/No.9 | ジャクソン クロスシリンダー検査 |
2013 | Vol.7/No.11 | 臨床データの取り扱い |
2013 | Vol.7/No.12 | 自覚的屈折検査 |
ACANTHAMOEBA
2005 年頃、コンタクトレンズ使用者を中心にした角膜感染症の大きなアウトブレイクが報じられ、コンタク
トレンズの消毒やケアシステムに対する関心が高まりました。角膜感染症の病原体の一つであるアカントアメーバは、コンタクトレンズ使用者への最大の脅威の一つです。
アウトブレイクとリコール①
2005 年、シンガポールの医師がソフトコンタクトレンズ使用者にフザリウム感染性角膜炎が増加しているこ
とに気づきました。その患者の90%以上がBausch+Lomb のRenuブランドのMPS を使用しており、当時最新の“RenuMoistureLoc”
(日本では販売されていません)がほとんどでした。フザリウム感染性角膜炎の増加は香港をはじめ他の地域でも確認されました。2006 年にBausch+Lomb はこのMPS のリコールを行い、フザリウム感染性角膜炎の患者は減少していきました。
アウトブレイクとリコール②
シンガポールのケースとほぼ同じ時期に、シカゴではアカントアメーバの角膜感染の増加が見られました。
フザリウム感染性角膜炎アウトブレイクのときに考案された調査計画書に従って、研究者たちは特定のソフト
コンタクトレンズ用ケア用剤Complete Moisture Plus(AMO)が関連していることをつきとめました。2007 年、AMO はComplete Moisture Plus のリコールを行いましたが、アカントアメーバ角膜炎の数が減少することはありませんでした。
アカントアメーバとはウィルスや細菌は多くの眼感染症を引き起こします。しかし、アカントアメーバほど深刻なものはありません。アカントアメーバは全く異なる種類の微生物で、原生動物と呼ばれるものであり、ウィルスや細菌よりも大きく複雑なものです。また、自身で動き回ることができ、細菌など他の微生物を食べます。土壌や天然の水中などどこにでも存在し、細菌よりもはるかに丈夫です。人間の免疫システムは、細菌に対しては働きますが、アカントアメーバに対してはそれほど働きません。その上、抗生物質に対して耐性を示します。塩素に対しても耐性を示しますので、水道からも見つかることがあります。アカントアメーバは移動したり活動ができる栄養体という形態で存在もできますし、特定の化学物質の存在や高温、低温など厳しい環境にあるときには、丸く二重の壁に包まれたシストという形態になります。シストになれば、長期間休止状態を保てます。シストになると、すべてのソフトコンタクトレンズ用化学消毒剤が効果がないほどに強くなります。しかし、熱消毒や高濃度の過酸化水素、他の化学消毒剤で消毒することができます。
アカントアメーバの栄養体(左)とシスト(右)
アカントアメーバ角膜炎
アカントアメーバ角膜炎は、ほとんどコンタクトレンズ使用者にのみ見られる疾患で、ソフトコンタクトレ
ンズ、ガス透過性ハードコンタクトレンズの両方に見られます。コンタクトレンズ使用者は、使用していない
人に比べて角膜感染症のリスクが高く、感染症のほとんどがウィルスか細菌によるものです。コンタクトレン
ズ使用者の角膜感染症の約1%がアカントアメーバによるものです。アカントアメーバの感染は非常に稀なケースであるにもかかわらず、医師はアカントアメーバ角膜炎に非常に関心があります。それは、アカントアメ
ーバ角膜炎が重症化しやすく治療が難しいからです。感染初期には、アカントアメーバ角膜炎はそれほど重症ではなく、他のウィルス性角膜炎や細菌性角膜炎と誤診されてしまうこともあります。アカントアメーバは角
膜上皮に付着して細胞組織を破壊し、角膜実質に侵入してきて実質組織も破壊し始めます。2,3 週間以内に適切な治療を始めなければ、極度の痛みを伴う角膜炎に進行してしまいます。実際、アカントアメーバ角膜炎の特徴の一つが痛みであり、それは角膜所見の程度と比較すると過度の痛みのように見えます。アカントアメーバは治療が効きにくく、角膜破壊を引き起こすこともあります。最終的には角膜移植が必要になることもあります。角膜移植をしたとしても、症例の20%程度でホスト側の角膜組織にアカントアメーバが潜伏しており、角膜移植片に再感染する可能性もあります。
危険因子
アカントアメーバ角膜炎はコンタクトレンズを使用していない人には非常に稀な眼疾患です。アカントアメ
ーバ角膜炎の最大の危険因子は、レンズケアに注意を払わない、または衛生状態の良くないコンタクトレンズ使用者であると思われます。ソフトコンタクトレンズもハードコンタクトレンズも両方です。以下に示したこ
とはアカントアメーバ角膜炎の危険性を増加させる要因です。
- 汚れた手でコンタクトレンズを扱うこと
- コンタクトレンズを水道水、お風呂の水、その他の汚染された水にさらすこと
- コンタクトレンズを装着したまま水泳すること
- こすり洗いやすすぎをしないこと
- 毎日、コンタクトレンズ消毒液を捨てず、新しい液に取り替えないこと
- 決められた期間でコンタクトレンズを交換しないこと
- 決められた期間でコンタクトレンズケースを交換しないこと
アカントアメーバ角膜炎から患者を守るには
この失明の危険性もある眼感染症から患者を守る鍵になるのは、予防です。そして、その予防の鍵になるものが根気強い患者教育とコンプライアンスです。具体的には、医師は次のことを患者に徹底させなければなりません。
- コンタクトレンズを扱う前に、必ず石鹸と清潔な水で手を洗うこと
- コンタクトレンズには、コンタクトレンズケア用剤以外のいかなる水も触れさせないこと
- どのレンズケア用剤を使用し、どのように使用するのかを患者に指導すること
- こすり洗いとすすぎが重要であること
- 毎日、使用したコンタクトレンズ消毒剤を捨てて、新しい液に交換すること
- 決められた期間でコンタクトレンズを捨て、新しいものに交換すること
- 2,3 ヶ月ごとにコンタクトレンズケースを新しいものに交換すること
アカントアメーバ角膜炎は非常に重症化する疾患ですので、コンタクトレンズを扱う医師や眼科スタッフは、 コンタクトレンズ使用者で、治療に耐性があり、痛みを伴う角膜炎患者を診たら、アカントアメーバ角膜炎を 疑うようにするべきです。特に、その患者のコンプライアンスが悪かったり、不潔である場合にはまず疑うべ きでしょう。1,2 週間で正しく診断ができれば、クロルヘキシジンやPHMB などの消毒剤を用いて効果的な治療 ができるでしょう。しかし、最初の治療が3 週以上遅れてしまうと予後はかなり悪くなります。現在市販され ているコンタクトレンズケア用剤にはアカントアメーバのシストを完全に殺せるものがありませんので、アカ ントアメーバ角膜炎予防の鍵になるものは、患者教育と適切なコンプライアンスです。
CONTACT LENS AND EYE CARE NEWS
加齢黄斑変性に対する新処方のサプリメント
Bausch + Lomb’s new formula for age related macular degeneration
8月にBausch + Lomb は、黄斑変性のリスクを低減させるよう設計された新しい栄養サプリメントを発売し ました。似たような製品が市場には多くありますが、これは新しい組成の栄養剤です。PreserVision AREDS 2は国立眼科研究所によるAREDS 2研究の推奨に従った最初の製品です。黄斑変性の研究として非常に重要と 考えられているAREDS 2研究は、オリジナルのAREDS 組成がベータカロチンを除去して、ルテイン・プラス・ ゼアキサンチンに置き換えることによって改善されると結論付けていました。これは、喫煙者の副作用を低減 させるかもしれません。このAREDS 2研究について9月号にまとめてあります。PreserVision AREDS 2の1日 の摂取量である2 カプセルに次の栄養分が含まれています。
- ビタミンC(500mg)
- ビタミンE(400IU)
- ルテイン(10mg)
- ゼアキサンチン(2mg)
- 亜鉛(酸化亜鉛80mg)
- 銅(酸化第二銅2mg)
新しい過酸化水素消毒システム
New hydrogen peroxide disinfection system
10月のAmerican Academy of Optometryの学会に参加したときに、Bausch + Lombが新しい過酸化水素消毒システムを来年発売するということを聞きました。この製品の情報をインターネットで探したのですが、見つけることはできませんでした。近い将来、一般の消費者向けにも情報が公開されるかもしれません。先月のニュースレターで、現在アメリカで販売されている過酸化水素消毒システム2種類についてはご紹介しました。
- Oxysept UltraCare(AMO)
- Clear Care(Alcon)
アメリカのコンタクトレンズ関連学会
2014 年前半に開催予定のコンタクトレンズ関連学会についてご紹介します。
Global Specialty Lens Symposium
この学会は、アメリカで最大のコンタクトレンズ関連学会です。アメリカのコンタクトレンズ業界紙Contact Lens Spectrumがスポンサーになっています。アメリカのコンタクトレンズを研究している代表的な医師による研究発表や講演が聞けます。
日程:2014年1月23日~26日
会場:リオホテル (ラスベガス) Rio Hotel, Las Vegas
ウェブサイト: http://www.pentavisionevents.com/event.aspx?eid=4
Heart of American Contact Lens Society
こちらもかなり大きな学会です。2日半にわたるコンタクトレンズやその他の眼科に関する継続教育のコースがあります。
日程:2014年2月14~16日
会場:クラウンプラザ、カンザスシティシェラトン (ミズーリ州カンザス)
ウェブサイト:http://www.hoacls.org/
CLAO International Symposium and Congress
日本でいう、日本コンタクトレンズ学会に当たります。しかし、日本の学会と比較すると規模は小さなものです。
日程:2014年6月12~14日
会場:インターコンチネンタルトロントセンターホテル (カナダ、トロント
ウェブサイト: http://www.clao.org/2014-clao-international-symposium-congress)
BASIC CLINICAL TECHNIQUE - Overview of subjective refraction
正常で健康な眼の屈折異常を測定するとき、自覚的屈折検査がもっとも正確な方法となります。熟練した検査員による自覚的屈折検査はオートレフでの測定よりも正確です。アメリカでは、オプトメトリストや眼科医の多くはフォロプターを使って検査します。フォロプターは、患者の目の前に検査用レンズを固定して、すばやく検査用レンズを交換しながら屈折検査を行うことができる機器です。しかし、検査員の中には掛け枠と検査用レンズを用いる人もいます。
私は日常的には次の手順で検査を行っています。
- 屈折異常の推測
次の方法を用いて、屈折値の推測をします。
• 患者が使用している眼鏡の度数
• オートレフ
• スキアスコピー (レチノスコープ)
• 遠方、近方の視力と自覚症状に基づく大まかな予測 - 片眼ずつの自覚的屈折検査
片眼ずつ別々に自覚的屈折検査を実施します。 - 両眼バランス
正確に両眼バランスをとるため、それぞれの眼前の検査用レンズの球面度数を調整します。両眼ともに無調節状態で遠くを見せながら行います。 - 近方加入度数の推測
老眼年齢であれば、両眼で近方加入度数を測定します。検査はいろいろな方法があります。 - トライアル装用
必要に応じて、掛け枠に屈折矯正値どおりのレンズを挿入し、窓の外の景色、本、雑誌、iPhoneなど実際の環境下で患者に見え方を評価させます。そして、最終的な度数の微調整を行うこともあります。
自覚的屈折検査の一連の流れをごく簡単にまとめるとこのようになります。
次回は、私自身の検査手順をもっと詳しくご紹介します。
(翻訳: 小淵輝明)