老眼視に対する処方

Volume 8, No. 5

CONTACT LENS NEWS

CooperVision コンタクトレンズ教育者賞
2014年2月20日付けのプレスリリースによれば、CooperVisionはアジア、中東、南北アメリカにおける卓越したコンタクトレンズ教育者を称える新しい賞のスポンサーをすると発表しました。その賞は、International Association of Contact Lens Educators (IACLE:国際コンタクトレンズ教育者協会)によって管理されるものです。受賞者は英国バーミンガムで6月に開催される英国コンタクトレンズ学会(BCLA)にて発表されます。

CooperVision 科学・技術賞
2014年4月2日付けのプレスリリースによると、CooperVisionはコンタクトレンズに関するトランスレイショナルリサーチを支援するための2つの補助金について発表しました。トランスレイショナルリサーチとは、比較的短期間で臨床応用できる基礎研究を指す新しい名称です。CooperVisionシードリングアワードは、将来トランスレイショナルリサーチに使われる可能性のあるデータを集めている科学者に年間100,000ドルを提供するものです。CooperVisionトランスレイショナルリサーチアワードは、目的を明確にしたトランスレイショナルリサーチプロジェクトを支援するために2年間400,000ドルを提供する賞です。この2つの賞は、科学者とCooperVisionの研究者がともに働くことを促すためのものです。

シンガポールにAlconが新工場設立
4月、Alconは眼科薬剤工場をシンガポールに作りました。これにより、アジア地域の顧客に対してより良いサービスが出来るとのことです。Alconは眼科手術機器、眼内レンズ、眼科薬剤、コンタクトレンズケア用剤を製造しており、世界中に20以上の工場を持っています。

Alcon JapanとCiba Visionの合併
2014年1月、AlconとCiba Visionは合併され、Alcon Japanになりました。これは2011年のアメリカにおけるAlconとCiba Visionの合併を受けてのことです。Alconは、スイスに本社を置く、国際的な製薬・医療機器製造会社、Novertisの傘下となりました。

Bausch + Lombが新しい過酸化水素消毒剤を発表
3月、Bausch + Lombは新しい過酸化水素消毒剤をアメリカで発売することを発表しました。名称はPeroxiClearで、コンタクトレンズ用消毒剤であり、4時間で完全に消毒が完了します。アメリカで販売されている他の過酸化水素消毒剤は消毒に6時間を要します。過酸化水素消毒剤に関するまとめは、このニュースレター2013年11月号をご覧ください。

 

新しいBausch + Lombのシリコーンハイドロゲルレンズ
Bausch + Lombは新しいシリコーンハイドロゲルレンズ、ULTRA with MoistureSeal technologyを発表しました。交換期間は1ヶ月で、より快適で水濡れ性に優れるように設計されているそうです。

KeraSoft IC Lensの処方用アプリをBausch + Lombが発表
Bausch + Lombはコンピュータおよびモバイル機器用の新しいアプリ、MoRoCCo VAを発表しました。このアプリは、KeraSoft IC soft contact lensの処方の手助けになるよう設計されています。KeraSoft ICは円錐角膜や角膜不正乱視用のシリコーンハイドロゲルレンズです。Dk値は60で、レンズ前面が非球面トーリックになっていて、20Dまでの円柱度数が入ります。

RECENT ARTICLES FROM IOVS

Investigative Ophthalmology and Visual Science (IOVS)は、Association for Research for Vision and Ophthalmology (ARVO)の機関誌です。ARVOは、世界中の80カ国に12,750名の会員を持つ世界最大の眼科学会です。多くの日本人眼科医もARVOの会員になっています。ARVOは年間を通していくつかの国際学会のスポンサーになっており、ARVOの年次総会はアメリカで5月の第1週に開催されます。IOVSは眼に関するすべての領域の研究が掲載されます。今月のニュースレターでは、皆さんが興味を持ちそうないくつかの記事をまとめてみます。

 

中国西部の地方検眼士の正確性
Zhongquiang Zhou, Sun Yat-sen University, Guangzhu, China
2014年1月号、P154-161

この研究の目的は、中国中央部の2つの行政区、陝西 と 甘粛の検眼士によって測定された屈折値の正確性を評価することです。中国の検眼士の多くは正式なトレーニングを受けておらず、オートレフの測定値にかなり依存しています。21名の地方検眼士によって屈折を測定された502名の子供が、大学でトレーニングを受けたオプトメトリストに再チェックを受けました。単純な近視眼であれば中国の検眼士の測定も比較的正確にできていました。しかし、遠視や乱視、矯正視力が0.5に達しない子供の場合、間違いの割合が有意に高くなりました。子供の20%は1D以上の誤差があり、10%には2D以上の誤差がありました。視力が0.5に達しなかった子供の半数は、オプトメトリストの測定では0.5以上の視力が得られました。中国の地方に住んでいる子供の10%程度は、より正確に屈折を測定することで便益があると考えられました。地方の検眼士もより良いトレーニングを受けるべきであると結論づけました。

緑膿菌MucDタンパク質分解酵素が、好中球の発生を抑制し、細菌の生存を促進することで角膜炎を調節
Yuji Mochizuki, Kyoto Pharmaceutical University, Kyoto
2014年1月号、 P240-246

緑膿菌は最も毒性が強く、治療が困難な角膜に対する病原体の一つです。緑膿菌による角膜感染症は、非常に進行が早く、24時間以内に目の組織破壊が起こります。緑膿菌角膜感染症は、ソフトコンタクトレンズ装用者、特に連続装用患者にとって、最も重篤な眼障害の一つです。

この研究の目的は、緑膿菌が角膜の免疫反応との戦いでなぜそのように強いのかをよりよく理解することです。緑膿菌によって生成される酵素、セリンプロテアーゼが緑膿菌感染の鍵であることがわかりました。自然にセリンプロテアーゼを作り出す緑膿菌の株は、セリンプロテアーゼが少ない株と比較してマウスの眼を大きく破壊する原因になりました。セリンプロテアーゼを抑制する新しい薬剤は緑膿菌による角膜感染症の治療に効果的である可能性があります。緑膿菌に関する簡単なまとめは、このニュースレターの2014年1月号に掲載されています。

塩化ベンザルコニウムに誘引されたドライアイに対するドキシサイクリン局所点眼の治療効果
Zhen Zhang, Xiamen University, Xiamen, China
2014年5月号、 P2963-2974

2007年に国際ドライアイ研究会(DEWS)の報告書が公開されてから、アメリカの多くの眼科医は炎症がドライアイの鍵となるメカニズムであることを認識しました。ドキシサイクリンは抗生物質として使われていますが、抗炎症剤としても働きます。ドライアイ治療に有用かもしれません。この研究では、マウスモデルを用いてドライアイ治療に対するドキシサイクリンの効果を試験することです。臨床と研究所での眼表面ダメージに関する試験を通じて、ドキシサイクリンで処理した角膜は炎症も眼表面ダメージも少ないことがわかりました。この結果が、ドライアイ治療にドキシサイクリンを用いることをサポートするエビデンスになると考えました。

ジクロフェナクは培養ヒト角膜上皮細胞を高浸透圧から保護し、ドライアイのラットモデルで角膜表面損傷を改善
Ryoichi Sawazaki, Keio University, Tokyo
2014年4月、 P2547-2556

ドライアイの主な要因の一つにマイボーム腺機能不全が挙げられます。マイボーム腺機能不全になると、涙液の蒸発が早まり、涙液の浸透圧が上昇します。高浸透圧は刺激の原因になり、炎症反応を引き起こします。細胞損傷の悪循環に陥り、刺激や炎症がさらに悪化していきます。したがって、抗炎症点眼薬はドライアイの治療に有用であることが認められているのです。最近までドライアイはほとんど人工涙液のみで治療されてきました。眼科用抗炎症剤は数種類が使用できます。局所ステロイド剤、シクロスポリン、ドキシサイクリン、非ステロイド抗炎症剤などの点眼薬です。この研究の目的は、市販されている非ステロイド抗炎症剤点眼薬の効果を見ることです。試験には、ジクロフェナク(Voltaren: Novartis)とブロムフェナク(Bromday: Bausch + Lomb)を用いて検討しました。これらは通常、白内障術後や屈折矯正術後に炎症を軽減させるために処方されています。ヒト角膜上皮細胞とラットの角膜を用いた試験で、ジクロフェナクが眼表面の損傷を低減させ、ブロムフェナクはその効果がないことを発見しました。ドライアイ治療にジクロフェナクが有用である可能性があると結論付けました。

近視矯正評価試験に参加した小児における近視進行の季節による違い
Jane Gwiazda, New England College of Optometry, Boston, US
2014年2月、 P752-758 

眼の異常で最も多いのは近視です。近視は増加傾向にあり、重症度も上がっています。特にアジアの国々では顕著であり、アメリカでも同様に増加しています。小児の近視進行の危険性を低減させるのに屋外活動が有効であることを示す報告がいくつか出ています。この研究の目的は、近視矯正評価試験(COMET)で採取した屈折データを解析して、冬と夏で近視の進行に違いがあるかを調べることです。COMETは累進屈折眼鏡レンズを使用することで近視進行を遅らせることが出来るのかを調べる大規模な試験です。3年に渡り採取した358名のアメリカ人の子供の屈折データを解析して、平均すると、近視の進行は冬よりも夏のほうが有意に遅いことがわかりました(p<0.0001)。4月から9月までの夏季の近視進行は-0.14D、10月から3月までの冬季の近視進行は-0.35Dでした。夏季には野外活動が多く、学校で過ごす時間が短いことが影響しているのではないかと結論付けました。

BASIC CLINIC TECHNIQUES

老視眼に対する処方
40歳未満のほとんどの患者に対しては、正確に遠方の屈折値を測定すれば、近くから遠くまでクリアに見えることが出来ます。カメラのオートフォーカスのように、眼は異なる距離のものを見るときに自動的にピントを調節します。このピントを合わせる眼の機能を調節と呼びます。調節は自動的で意識することなく起こります。加齢に伴い、調節機能は徐々に衰えていき、40~45歳になれば、遠くを見るための眼鏡をかけたままだと近くを見ることが困難であると感じ始めます。これを老眼と言います。調節力が不十分で近くに焦点を合わせることが困難になりますから、近くを見るための光学的な補助が必要になります。近くを見るための眼鏡レンズ度数は、遠くを見るためのレンズよりもプラス側の度数になります。近くを見るために遠く用のレンズ度数に加入するプラス度数を近方加入度といいます。この年代の患者の検査をするときには、検眼士は遠く用の度数を決定してから、近く用の度数も決定します。近方加入度は次の3つの要素によって決まります

  • 遠方の屈折値
  • 必要な調節量
  • 調節力

遠方の屈折値
遠方の屈折矯正の必要ない正視の場合や、すでに遠方が良く見えるように矯正してある場合、近方加入度数は比較的容易に決定できます。必要な調節量と調節力のみを考えればよいからです。未矯正の近視の場合、近方加入度は小さくなります。未矯正の遠視であれば、近方加入度はより強いプラス度数が必要になります。

必要な調節
遠方の屈折値が完全に矯正されていれるとき、必要な調節量をディオプターで表すと、読書距離(m)の逆数と等しくなります。必要な調節量は、ある距離でものをクリアに見るのに必要な調節力になります。

必要な調節量
= 1/読書距離

たとえば、40cm(0.4m)離して読書をする場合、必要な調節量は、次の通りです。

必要な調節量
= 1/(0.4m)
= 2.5 D

調節力
調節力とは眼が調節できる範囲のことです。年齢から調節力を予測することが出来ますし、患者の調節力を測定することも出来ます。調節力はプッシュアップ法で測定しますが、以下の手順で行います。

  • 遠方視を矯正した度数のレンズを装用させる。
  • 検査は片眼ずつ行う。
  • 最も小さい視標がクリアには見えなくなるまで(ぼけ始めるまで)、視力測定カードを眼のほうに向かって近づけていく。
  • その地点から眼鏡レンズ面までの距離(m)を測定する(近点)。

調節力は次の式で計算できます。

必要な調節量
= 1/(近点)

たとえば、近点が33cm(0.33m)であれば、調節力は、次の通りです。

調節力
= 1/(0.33m)
= 3.0 D

調節力の半分は使わない
近くを快適に見るために、近方視時に患者の持つ調節力の半分は使わせないようにします。つまり、調節力の半分だけを使って、半分は休ませるようにするのです。調節力の半分が必要な調節量よりも小さい場合、近くを見るときの補助(近方加入度)が必要と言うことです。

近方加入度の推定
近方加入度とは、調節力を補って近方を見るために必要なプラス度数のことです。これは次の式で計算できます。

近方加入度
= 必要な調節量 - 0.5×調節力

たとえば、調節力が3.0Dで読書距離が40cm(必要な調節量 = 2.5D)の場合、近方加入度は次のようになります。。

近方加入度
= 1/(0.33m)
= +1.0 D

40cmくらいで読書をするアメリカ人の典型的な加入度を表1に示します。診療では、近方加入度数を年齢に基づいて直接推測するように習います。

近方加入度の決定
近方加入度を推測した後、かけ枠に近方が見える度数を入れて検査してみることをお勧めします。次の式から近方が見える度数は計算できます。(乱視度数は近くでも遠くでも変えません)

近くの度数度
= 遠くの度数 + 近方加入度

たとえば、遠くの度数が-3.00Dで、近方加入度が+1.00であれば、次のように計算できます。

近くの度数
= (-3.00D) + (+1.00D)
= -2.00D

検眼レンズを掛けたままの患者に近くのものや携帯電話などを快適な距離で見させます。見え方や快適さを向上させるために必要があれば、近方の度数を±0.25Dで調整して、適切な加入度を決定してください。

(翻訳: 小淵輝明)

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