Summary of the American Academy of Optometry annual meeting
10月8日 AM10:00-12:00
ドライアイ疾患の管理 なにを、なぜ、どのように
What, Why, How about Dry Eye Disease Management
Paul Karpeki
ドライアイはよくある疾患ですが、治療に苦労することもよくあります。最も一般的な治療法は単純に人工涙液を点眼することですが、その効果は長続きしないので、ドクターも患者も失望する事がしばしばあります。Dr. Karpeckiは、多くのドライアイ症例から、次の2つの状態について評価して治療すべきであることを学びました。
- 眼瞼炎
- マイボーム腺機能不全
眼瞼炎
これは眼瞼の縁の炎症であり、ドライアイ症例でよく見られます。3つの原因があります。
- 黄色ブドウ球菌による感染症
- ニキビダニ
- 脂漏症
ドクターは眼瞼縁をよく観察し、眼瞼炎の原因を判断して、適切な処置を施す必要があります。この3つの状態では、患者は毎日の衛生に気をつけなければなりません。つまり、残屑を除去するために眼瞼を清潔の保つのです。
黄色ブドウ球菌の感染では、残屑が睫毛付近に見られ、炎症の兆候があります。局所の抗生物質を処方し、眼瞼を清潔に保つことで治療します。つまり、患者は残屑を取り除くために眼瞼を拭き取る必要があります。市販されているOcusoft Originalのような眼瞼を拭くための医療用パッドもあります。Dr. Karpeckiは、これらが非常に有効であると示しました。
ニキビダニは、体中の皮膚脂腺に見られるダニです。睫毛小胞(特に高齢者)でよく見られます。ニキビダニが眼瞼炎を引き起こすことがあります。ニキビダニは、睫毛周辺に白い輪状の所見が見られます。最も有効な治療法は、ティーツリー油を使って眼瞼縁をやさしくこすり洗いすることです。製品化されているOcusoft PlusとCliradexはティーツリー油を含んでいます。Cliradexの製品紹介ビデオをインターネットで見ることができます。
患者の眼瞼縁付近に残屑、発赤、フケなどが見られれば、脂漏性眼瞼炎の可能性があります。その場合、皮膚、頭皮の状態の治療の他に、眼瞼炎の治療のためにステロイドの局所処方や眼瞼の衛生を保つ処方を行います。
マイボーム腺機能不全
マイボーム腺機能不全(MGD)はドライアイの主要な原因のひとつです。しかし、所見が見られない場合や見られても泡状の涙液や小さな乾燥した脂肪の蓋が眼瞼縁に見られるだけということもあります。ドクターはマイボーム腺をしぼり、脂肪を出すことによってMGDの確定診断を行います。ドクターが眼瞼の前面を指で圧迫しているとき、Mastroda Paddleのような平面や綿棒を眼瞼の後ろ側に置きます。マイボーム腺が健康な場合、脂質の流れは最初からスムーズです。MGDの場合、脂質の流れがスムーズではなく、重症になると、脂質は歯磨き粉のように硬くなります。極端な場合には、強く圧迫しても何も出てきません。
Dr. KarpeckiはMGDに対する次のような治療法を提唱しています。
- マイボーム腺の閉塞物の除去: 綿棒で擦ったりBlephEx(自動的に眼瞼を清拭する機器)
を用いたりして、眼瞼縁から角質化した皮膚を除去することは有効です。
(BlephEx video: https://www.youtube.com/watch?v=t0GsGi0Jgr0)次にすることは、眼瞼縁を温めることでマイボーム腺からの分泌物をやわらかくします。数分間、まぶたを40度程度に温めます。Bruder maskというまぶたを温めるための製品を使用しても良いですし、電子レンジで10秒ほどあたためたり、お湯で温めたりした清潔な布を使用しても良いでしょう。
まぶたを温めたら、閉じたまぶたをマッサージしてマイボーム腺からの分泌物が流れやすくなるように閉塞物を除去します。まぶたの前後面を適正な温度に温めて、脂質が流れるように振動させるLipiFlowという機器もありますが、非常に高価です。しかし、1回の処置で最高9ヶ月間有効です。LipiFlowよりも安価な機器も開発中と聞いています。
- 炎症の治療: MGD治療の第2段階は、ステロイド点眼、シクロスポリン(Restasis)、経口ドキシサイクリン、オメガ3脂肪酸栄養補助食品などを使っての炎症の治療です。Restasisの抗炎症効果が完全に発揮されるまで3~4ヶ月かかりますので、その間に局所ステロイド剤のLoteprednolとRestasisの両方を使用することを勧めるドクターもいます。1ヵ月後くらいに、Restatisは継続したままで、ステロイド剤を徐々に減らしていきます。Restasisは副作用が少ない非常に安全な薬です。
- 涙液層の安定化: MGD治療の第3段階は、涙液層を安定させるための長期的な治療です。患者には毎日のまぶたを温めたり、清潔にしたりという処置を継続させ、適切な人工涙液を使用させます。人工涙液は目的別にいくつかの種類があることをDr. Karpsckiは示しました。
- 水分の補給
- 涙液の浸透圧を下げる
- 涙液の脂質層の補助
- ムチン層の補助
- 角膜上皮の修復
これらの目的の1つ以上に有効な製品が販売されています。毎日数回の点眼が必要な場合には防腐剤の入っていない人工涙液をお勧めします。また、涙液層破壊時間(BUT)や角膜ステイニング観察などの従来のドライアイ検査の他に次のような新しい検査機器が開発されています。
- TearLab: 涙液の浸透圧を測定する機器
- LipiView: マイボーム腺の画像診断
REVIEW OF THE NEWSLETTERS
このニュースレターでは、今月で99号になりますが、これまでアメリカの最新ニュース、学会や論文のまとめなどを書いてきました。学会は、ARVO、American Academy of Optometry、CLAO、Global Specialty Lens Symposium、日本コンタクトレンズ学会などです。これまでに書いてきた記事をまとめました。
Basic clinical techniquesの記事もまとめました。これは2013年からはじめたもので、眼科的な検査の基礎についての記事を毎号の最後の部分に掲載していました。この記事は眼科で働くスタッフの方々向けに書いたものです。Basic clinical techniquesも今月で最後になります。
BASIC CLINICAL TECHNIQUES – Visualizing opacities
白内障などの眼の中の混濁を可視化
私が働いているNSU College of Optometryでの視覚学の講義で、学生に自分自身の目の中の混濁を可視化する方法について教えています。例えば、
- 涙液中の残屑
- 角膜混濁
- 白内障
- 硝子体中の浮遊物(飛蚊症)
これらは全て網膜に影が投影され、その影を見る事ができます。硝子体中の浮遊物は網膜に近い位置にあるため、投影される影は比較的シャープなものになり、明るい色の壁や空などを見ているときに簡単に自分自身で見ることができます。これは飛蚊症として認識されます。それに対して白内障などのように、網膜よりもかなり前方にある混濁はシャープな影にはなりませんので、見る事は困難です。しかし、図6に示した方法を使うことで、患者自身で自分の白内障を観察することができます。
後ろから照明が当たっている1mmのピンホールを眼前約15mmの位置に置きます。この照明は明るすぎてもいけません。患者にピンホールを前後に動かすように指示して、ピンホールの境界が最も鮮明になるようにしてもらいます。白内障がある場合、ピンホールの中に塵か埃があるように見えるのですが、これが可視化された白内障などの混濁なのです。
この方法を使うと自分の瞼や睫毛も眼の中から見る事ができます。照明の当たったピンホールを見ながら、上眼瞼をゆっくりと閉じさせるのです。患者は光の入る開口部が小さくなり、暗い影が下から上に移動することを認識するでしょう。この暗い影は上眼瞼の境界によるものです。また、この影の境界付近に睫毛のぼやけた像も見ることができます。この像は、実際の位置とは反対側に見えます。脳に伝わった網膜は、脳で反対になって認識され、たとえば、上にある影は下にあるように見えるからです。ドクターは、患者に白内障について説明をするときにこの方法を使う事ができます。
今月号がDr. Salmon Newsletterの最終号です。2007年6月から8年半、ほぼ毎月発行して99号目になります。長い間、ご愛顧いただきありがとうございました。先生方から「Dr. Salmon News読んでいるよ」と声をかけていただけた事が励みになっていました。また、Dr. Salmonには、アメリカの学界情報やコンタクトレンズ情報、オプトメトリーの教育のことなど、いろいろなことを取り上げていただき、興味深いことを書いていただけたことに感謝しています。今までに発行したDr. Salmon Newsletterは、全号をインターネットで読む事ができます。
今まで本当にありがとうございました。
(翻訳: 小淵輝明)