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Optometry and Vision ScienceはAmerican Academy of Optometry(AAO: アメリカ オプトメトリー学会)の学会誌です。ここには、アイケアのあらゆる面に関する記事があります。もちろん、コンタクトレンズや角膜に関するものも含まれています。Optometry and Vision Science 7月号から最新記事を2つ紹介したいと思います。
50年間の研究の旅: 巨匠たちとすばらしい共同研究者たち (The Charles F. Prentice 賞記念講演 2014)
A 50-Year Research Journey: Giants and Great Collaborators
Brien A. Holden
Optometry and Vision Science, July 2015, p. 741-9
昨年の11月、Dr. Brien HoldenはAmerican Academy of Optometryで最も栄誉あるThe Charles F. Prentice 賞を受賞しました。この記事は、彼の1965年から2014年におよぶ研究をまとめた彼のスピーチを書き起こしたものです。
Dr. Holdenは、世界で最も有名なオプトメトリストの一人であり、コンタクトレンズの発展に多大なる貢献をしました。日本コンタクトレンズ学会にも多くの友人がいますし、日本においても良く知られた先生です。Dr. Holdenのスピーチは近代のコンタクトレンズの歴史についてまとめたものであり、特に興味を引くものでした。Dr. Holdenは、多くのコンタクトレンズの発展に関ってきました。
オルソケラトロジー
記事の中でDr. Holdenは、ご自身のことを「私は最低の学生でした。高校時代とオプトメトリー学科の2年生のときに落第しているのです」と語られています。オーストラリアのメルボルン大学のオプトメトリー課程を卒業した後に、ロンドン市立大学のPh.D過程に進学しました。1965年のことです。Dr. Holdenはそこでオルソケラトロジーを学び、角膜形状の変化を測定し理解するためにフォトケラトスコープを作りました。「私が使ったコンピューターの双方向アルゴリズムは、計算過程が多かったため、2日間は市立大学のコンピュータシステムを全てその計算に使用しなければなりませんでした」と語っています。オルソケラトロジーによる角膜の屈折力変化はケラトメトリーでは完全には説明することができませんが、角膜トポグラフィを使えば説明できることも発見しました。
ソフトコンタクトレンズと角膜酸素不足
Dr. Holdenは1970年にPh.Dを取得してオーストラリアに戻ってきました。オーストラリアではDr. Otto Wichterleが発明したソフトコンタクトレンズに関する研究が始まっていました。Dr. Wichterleは、彼のコンタクトレンズに対する多大な貢献だけではなく、彼の国での社会的に不当な扱いに対して大々的に反対意見を表明していたと、Dr. Holdenはよく言っていました。Dr. HoldenがDr. Wichterleに会いにチェコスロバキアへ行ったときのことをこう書いています。「Dr. Wichterleはチェコ政府に反対意見を表明したために刑務所に1泊させられていて、刑務所からプラハ空港に私を迎えにきたことは何度もありました」 その当時、ソフトコンタクトレンズの連続装用や角膜酸素不足による合併症について特に心配していました。Dr. Holdenが発見したものの中に角膜ブレッブ(corneal bleb)があります。それはソフトコンタクトレンズ装用後に角膜内皮細胞に見られる黒い点です。ブレッブの原因については角膜の専門家によって議論されました。その中に日本の三島済一先生やアメリカのDr. David Mauriceもいました。角膜酸素不足に関する他の研究ですが、Dr. HoldenとDr. George Mertzは、その分野で最も重要な論文のひとつを発表しました。それはソフトコンタクトレンズ装用によって起こる角膜浮腫と酸素透過について書かれたもので、就寝時に起こる正常な角膜厚みの変化である4%を超える過度な角膜浮腫が就寝時装用でも起こらないDk/t(酸素透過率)は87であるという基準を示しました1,2)。
シリコーンハイドロゲル
1990年代にDr. Holdenと80名の科学者が集まり、オーストラリアにCooperative Research Centre for Eye Research and Technology (眼に関する研究・技術のための共同研究所)を設立しました。それはコンタクトレンズの発展で最も重要なもののひとつであるシリコーンハイドロゲルを開発するための施設です。「それはコンタクトレンズ業界の革命でした。それからの15年で300億ドル以上を売り上げ、酸素不足、浮腫、角膜輪部充血、過炭酸症による角膜内皮多形成などのコンタクトレンズ装用による眼障害を減少させ、角膜知覚を正常に保つことができたのです」
屈折異常の未矯正と近視の広がり
彼らの次の研究プロジェクトは、コンタクトレンズ装用による感染症と炎症でした。最近、Dr. Holdenは世界中の研究者やWHO (World Health Organization:世界保健機構)と未矯正の屈折異常も問題に関する仕事をしていました。これは世界的な視覚障害の主な原因になっています。WHOのアシスタントディレクターであるDr. Le Gales Camusの言葉を引用しました。「屈折障害を未矯正でいることの結果、子供が学校に行けなかったり、大人が仕事に就けなかったり、家族が貧困に苦しんだりするのです」 この問題に密接に関係しているのが近視の問題です。近視は世界中で著しい増加をしています。Dr. Holdenは世界中の近視進行を抑制するために国際的な研究者のチームと一緒に働いていました。
多くの人がDr. Holdenの講演を聴いたことがあると思います。日本コンタクトレンズ学会をはじめ、その他の学会でも数多くの講演をしていました。Dr. Holdenのこれまでの仕事は世界中の多くの人々の役に立っています。記事の中で、Dr. Holdennよりも前に研究を行ってきた巨匠たちや長年彼とともに研究をしてきた研究者たちのおかげでDr. Holdenの成功があると強調していました。
この記事を書いた後、Dr. Brien Holdenが7/27にシドニーで亡くなったという悲しいニュースを読みました。心よりご冥福をお祈りいたします。
- Holden BA, Mertz GW, McNally JJ. Corneal swelling response to contact lens worn under extended wear conditions. Invest Ophthalmol Vis Sci1983;24:218-26.
- Holden BA, Mertz GW. Critical oxygen levels to avoid cornreal edmea for daily and extended wear contact lenses. Invest Ophthalmol Vis Sci1984;25:1161-7.
この記事内の写真は全てBrien Holden Vision Instituteの許可を得て掲載しています。
アメリカのコンタクトレンズ処方状況 (2002~2014年)
Trends in US Contact Lens Prescribing 2002 to 2014
Nathan Efron, Jason J Nichols, Craig A Woods, Philip B Morgan
Optometry and Vision Science, July 2015, p. 758-67
Contact Lens Spectrumに毎年アメリカのコンタクトレンズ処方状況の調査結果が掲載されますが、この記事は2002年から2014年までのデータをまとめたものです。この期間に合計1650名の医師による7702名の患者のデータが調査対象になりました。このニュースレターでもこれまでに数回Contact Lens Spectrumの調査結果の報告をしてきましたが、この記事では13年間全てのデータのまとめになります。
- ハードコンタクトレンズの処方率は徐々に減少しています。2002年は13%でしたが、2014年は9%になりました。
- シリコーンハイドロゲルレンズは2001年にアメリカで導入されて以来着実に処方率を伸ばし、73%になりました。反対に中程度の含水率のハイドロゲルレンズは減少しています。
- トーリックソフトコンタクトレンズはゆっくりと処方率を上げ、2001年は23%でしたが、2014年には30%に達しています。
- モノビジョンはこの期間で処方率がほとんど変化せず約5%でしたが、マルチフォーカルソフトコンタクトレンズは着実に伸ばし、2002年は5%でしたが、2014年は15%になりました。
- 図4にこの期間中のハードコンタクトレンズの処方割合を種類別に示しました。ハードコンタクトレンズ処方の40%が特殊レンズ(トーリック、マルチフォーカル、モノビジョン、オルソケラトロジー)でした。
図4. 期間中のハードコンタクトレンズの処方割合
- この期間に1日使い捨てソフトコンタクトレンズの処方は全てのソフトコンタクトレンズ中で5%から30%に増加しました。2週間交換ソフトコンタクトレンズは45%から25%に減少し、1ヶ月交換ソフトコンタクトレンズは40%から50%に増加しました。
- 連続装用は着実に減少しており、4.6%になっています。
- MPSはソフトコンタクトレンズケアでは多数を占めていますが、徐々に減少傾向にあり、ケア製品全体の83%でした。逆にワンステップの過酸化水素消毒システムが徐々に増加し、残りの17%になっています。
図5. InfantSEE ウェブサイト
InfantSEE 赤ちゃんのためのアイケア
2005年American Optometric Association (AOA: アメリカ オプトメトリー協会)は、InfantSEEという赤ちゃんを対象とした全国規模のアイケアプログラムを創設しました。アメリカ中のオプトメトリストが自発的に参加しています。NSU Oklahoma College of Optometryの准教授、Dr. Alissa ProctorにInfantSEEについて聞いてみました。
InfantSEEは、赤ちゃんという意味のinfant と見るという意味のseeをつなげた造語です。発音もinfancy(赤ちゃんの時期)と同じです。
- Q
- InfantSEEとはどういったものですか?
- A.
- AOAによる公衆衛生プログラムです。6~12ヶ月の赤ちゃんを対象にして、広範囲の検眼を無料で実施しています。これはAOAの会員のオプトメトリストが地域の役に立つ良い機会であり、小児患者を集めることにも役立っています。
- Q
- InfantSEEはどのように始まったのですか?
- A.
- 元大統領のジミーカーター氏が2005年にAOAに対して子供の視覚について話したのです。視覚に問題を抱えている子供の多くは見落とされていて、適切なアイケアを受けていないと、ジミーカーターは言いました。彼は自分の孫が弱視であることにも触れました。子供のアイケアを充実させるように求め、AOAはそれに応えてInfantSEEプログラムを始めました。今年の夏でInfantSEEは10周年を迎えます。
- Q
- InfantSEEのようなプログラムはなぜ必要なのですか?
- A.
- 視覚の問題は発見が早ければ、それだけ早く治療を開始できます。たとえば、屈折性の弱視は治療開始が早ければそれだけ効果も大きいでしょう。斜視とは違って、屈折性の弱視は小児科医や両親、介護士などでは発見することは困難です。見つけるには眼の検査が必要だからです。
- Q
- どれくらいの年齢の子供がInfantSEEの検査を受けているのですか?
- A.
- InfantSEEは12ヶ月未満の赤ちゃんを対象に考えられています。私は6~9ヶ月くらいで受診することをお勧めします。
- Q
- ドクターがInfantSEEで主に見つけようとしている問題は?
- A.
- InfantSEEは次の問題を見つけるように考えられています。
- 弱視
- 早期発見と経過観察が必要とされる屈折異常の未矯正
- 斜視
- 白内障、網膜芽腫などの小児腫瘍
- Q
- InfantSEEではどんな検査が行われるのですか?
- A.
- 次のような検査を行います。
- Fix & followテスト、Teller視力カード、Lea Paddlesなどを使用した視力検査
- 瞳孔反射
- 眼球運動検査
- カバーテストやヒルシュベルグテストなどでの眼位検査
- Brü ckerテスト
- レチノスコピー(検影法)
- 手持ちの細隙灯顕微鏡やペンライトと20Dレンズを用いた前眼部検査
- ペンライトを用いた前房隅角
- iCare眼圧計用いたり、眼瞼を指で触って評価する眼圧検査
- 直像検眼鏡や間接検眼鏡を用いた眼底検査
- Q
- InfantSEEの検査はどのくらい時間がかかるのですか?
- A.
- InfantSEEの検査は通常の患者の検査の合間に行います。まず、散瞳しない検査を行いますが、それは約15分かかります。その後、散瞳剤を点眼し、散瞳するまで30~40分待ちます。この待ち時間の間に他の患者を診ることもあります。散瞳後の検査は数分で終わります。
- Q
- 検査費用は誰が払うのですか?
- A.
- 最初の検査費用は無料で行われます。経過観察が必要な場合には、通常の検査と同様に患者か保険会社が支払います。
- Q
- 1年間にどれくらいのドクターがボランティアでInfantSEEの検査を行っているのでしょうか?
- A.
- 調査によれば、ほとんどのドクターは1年に5例以下です。中には20例ほど診るドクターもいます。
- Q
- InfantSEEはアメリカ中で受けることができるのですか?
- A.
- 国内に10,000人以上いるオプトメトリストがInfantSEEを支援しています。地域によっては他の地域よりも熱心に取り組んでいるところもあります。
- Q
- 異常が見つかった場合、ドクターは何をするのでしょうか?
- A.
- 適切な経過観察や治療を受けることを勧めます。
BASIC CLINIC TECHNIQUE – EYE DOMINANCE TESTIN
利き目の判定方法
コンタクトレンズを用いた老視矯正法のひとつにモノビジョンがあります。片方の眼を遠くが見えるように矯正して、反対の眼は少しプラス側に矯正して近くが見やすいようにします。どちらの眼を遠くに合わせて、どちらの眼を近くに合わせればよいのでしょう。通常は利き目を遠くに合わせるのです。したかって、モノビジョンでコンタクトレンズを処方する場合には、利き目がどちらかを判定することが大切です。
利き目の定義
利き目とは、人が片目で何かをするときに使う眼のことです。たとえば、次のようなことです。
- カメラのファインダーを覗きこむ眼
- 望遠鏡や顕微鏡を覗く眼
- 両眼とも完全に矯正してあるときに若干見え方の質が良い眼
- 両眼視野闘争が起こったときに勝つ方の眼
方向性の利き目
利き目の検査で最も一般的なものは、方向性の利き目を特定する検査です。方向性の利き目とは、片目で行う作業で使われる方の眼です。検査は次の手順で行います。
- まず、両眼とも完全矯正の状態にします。患者に壁にかかった時計などの目標物を両眼で見るように指示します。
- 患者に手を前方に伸ばさせて、両手を使って覗き穴を作らせます。両眼で自然にその穴を通して目標物を見るように指示します。
- その状態を維持させたまま、患者に右眼を閉じさせて左眼だけで見させ、その後、左眼を閉じさせ右眼だけで見させます。穴を通して目標物を見続けられるほうの眼が利き目ということになります。
感覚的な利き目
利き目検査のもうひとつは、感覚的な利き目を特定する方法です。検査は次の手順で行います。
- 両眼とも完全矯正の状態にします。患者に視力表を両眼で見るように指示します。
- 両眼で見続けるよう指示し、右目の上に+1.5Dのレンズを置きます。患者に見え方の質を観察させます。そしてレンズを左眼の上に移動させ、見え方の質を観察させます。レンズを右眼の上にしたり左眼の上にしたりさせながら、レンズが右眼の上にあるときと左眼の上にあるときのどちらの見え方が良いかを決めさせます。
- 見え方が良くなる方の眼の上にレンズを置きます。
- レンズでカバーされていない方の眼が利き目です。両眼視野闘争が起こっている状況下で、利き目がレンズでカバーされていないとき両眼での見え方が良くなりますので、そちらの方を好みます。
ここで紹介した2つの方法のどちらでも利き眼が特定される人もいますが、方向性の利き目と感覚的な利き目が異なる人もいます。モノビジョンで合わせることを目的としている場合、理論的には方向性の利き目よりも感覚的な利き目のほうが適しています。モノビジョン処方時には感覚的な利き目の検査をすることをお勧めします。
(翻訳: 小淵輝明)