ARVO学会情報2013(1)

Volume 7, No. 6

Association for Research in Vision and Ophthalmology (ARVO)

毎年の4月末か5月はじめに世界で最も大きな眼科学会、ARVO ( Association for Research in Vision and Ophthalmology ) が開催されます。学会は5日間開かれ、毎日約1,000題の研究発表があり、眼科あるいは視覚関係のあらゆる面の最新の研究に触れることが出来ます。世界中から12,000名の医師や研究者が参加し、発見したことや意見などを交換したり、共有したりしています。ARVOでの発表数や参加者数で考えると、日本は主要な国の一つといえます。日本から多くの友人が参加しますので、私はいつもARVOを楽しみにしています。

ARVOは非常に大きな学会ですので、発表の大部分を見てまわることは不可能です。私は、セッションのリストを確認し、それぞれのセッションに含まれる個々の発表タイトルを確認するようにしています。そして、選択した講演に参加したり、発表ポスターを見るために展示会場に足を運び、発表者たちと話をしたりします。学会初日は60のセッションがあり、それぞれに5~50の発表があります。以下に例を挙げます。

  • 加齢性黄斑変性
  • OCTと画像解析
  • 眼球運動
  • 後眼部と網膜疾患
  • 調節と老視
  • 中枢神経系と眼疾患
  • 角膜とコンタクトレンズ
  • 緑内障と神経防護作用
  • 水晶体、白内障手術、IOL
  • 分子、細胞の生理学
  • 遺伝学の進歩
  • 眼表面と涙液層
  • 外傷性脳損傷と視覚
  • サービスが十分に受けられない人々へのアイケア

今月はこの中から3つのセッションを選択して、まとめと解説をしようと思います。

  • 調節と老視
  • コンタクトレンズ 1
  • 角膜と白内障

5月5日(日)
論文セッション: 調節と老視

Three-Dimensional Biometric Measurements of Accommodation Using Full-Eye-Length Swept-Source OCT Full-Eye-Length Swept-Source
OCTを使用した、調節の3次元生体測定
Ireneusz Gruslkowski (Massachusetts Institute of Technology, USA)

眼球全体を画像化できる新型のFull-Eye-Length Swept-Source OCTを使用することで、調節時の眼の変化を直接観察することが出来ます。この方法により、調節についてよりよく理解できるようになり、調節を改善するための技術開発の助けになります。

Three-dimensional Biometry and Alignment in Eyes Implanted with Accommodative IOL as a Function of Accommodative Demand
調節要求により調節するIOLを挿入した眼の3次元生体測定と位置調整
Susana Marcos (Consejo Sup de Investig Sci, Spain)

Crystalens (Bausch + Lomb)は近方視時にレンズが前方に移動するように設計されたIOLで、FDAの認可も取っているものです。20名の患者を撮影した高解像度OCTによると、Crystalensはほとんど移動することはなく、逆に後方に移動するものもありました。この方法により、メーカーが言っていることとは逆に、適切に調節することはないことが示されました。

Anatomic and Accommodative Changes in Patients Undergoing Cataract Surgery with Presbyopia Accommodative Lens Placement
老視用調節眼内レンズを用いた白内障術後患者の解剖学的、調節性変化
Diego Chvez (Hospital Nuestra Señora de la Luz, Spain)

Crystalens IOL装用眼にピロカルピンを点眼して毛様体筋を刺激した後、超音波生体顕微鏡を用いて観察しました。ピロカルピンがCrystalensの調節も刺激するはずでした。しかし、Dr. Marcosの研究(上記)と同様に、このIOLは前方に移動することはなく、後方に移動するものもあり、調節が有効に働いているとはいえません。

Depth-of-focus of the Accommodating Eye
調節している眼の焦点深度
Norberto Lopez-Gil (Universidad de Murcia, Spain)

調節中に起こる瞳孔径と高次収差の変化を測定し、その後、調節しないように毛様体筋麻痺剤を点眼しました。調節に伴う高次収差と瞳孔径を補償光学システムを用いて追加しました。これは焦点深度を増加させるものであり、自然な調節ラグを説明するものです。

ポスターセッション: コンタクトレンズ 1

Antimicrobial Activity of Melimine or Cathelicidin Bound to Contact Lenses
コンタクトレンズに接着するMelimine、Cathelicidinの抗菌性
Debarum Dutta (Brien Holden Vision Institute, Australia)

緑膿菌(グラム陰性)および黄色ブドウ球菌(グラム陽性)に対する2種類の抗菌コート、MelimineとCathelicidinの抗菌機能を試験しました。Melimineは両方の細菌に有効でしたが、Cathelicidinは黄色ブドウ球菌にのみに有効でした。

Antimicrobial Efficacy of Multipurpose Disinfecting Solutions against Clinical Isolates after Prolonged Storage
長期保存した臨床分離株に対する多目的消毒液(MPDS)の抗菌作用
Anthony Lam (Abbott Medical Optics (AMO), USA)

市販されている4種類のMPSを満たしたコンタクトレンズケースに、コンタクトレンズを長期間保存した後、グラム陰性細菌に暴露しました。6時間の処理の後、polyquaterniumとalexidine二酸化化合物を含んだMPSとpolyquaterniumとPHMBを含んだMPSのみが有効でした。

Antimicrobial Efficacy of New Investigational Multipurpose Disinfecting Solution and Comparison to Commercially Available Multipurpose Disinfecting Solutions
治験中の新しい多目的消毒剤の抗菌効果と市販の多目的消毒剤との比較
Marina Milenkovic (Abbott Medical Optics (AMO), USA)

新しい多目的消毒剤(MPDS)と市販されている3種類のMPDSの細菌、真菌、アカントアメーバに対する有効性について試験をしました。新しいMPDSと市販のMPDSの1種類の有効性は確認されましたが、他の2種類については有効ではありませんでした。新しいMPDSにはPHMBとポロキサマーが含まれおり、有効性が確認されたMPDSはPHMBとポロキサミンが含まれています。

Assessment of the Relationship between Contact Lens Coefficient of Friction and Subjective Lens Comfort
コンタクトレンズの摩擦係数と自覚的な装用感の関係の評価
Jami Kern (Alcon Research Ltd, USA)

5種類のソフトコンタクトレンズを処方された157例の臨床データをまとめ、摩擦係数が低いと快適性に相関があることを発見しました。

Contact Lens Disinfection Solution vs. Blister Pack: A Subjective Evaluation コンタクトレンズ消毒液 vs. ブリスターパックの液: 自覚的評価 Scott Schatz (Appalachian College of Optometry, USA)
20名を対象に、ブリスターパックから直接目に装用した場合とMPS(RevitalensまたはPureMoist)に浸漬して装用した場合で、従来素材のソフトコンタクトレンズおよびシリコーンハイドロゲルレンズの装用感を比較しました。その結果、MPSに浸漬したレンズのほうがより快適であることがわかりました。

Effect of Contact Lenses and Lens Cases on Disinfection Efficacy of Four Multipurpose Disinfection Solutions
4種類の多目的消毒剤の消毒効果のコンタクトレンズおよびレンズケースの影響
Manal Gabriel (Alcon Research Ltd, USA)

4種類の多目的消毒液の消毒効果をAEEMCという新しい方法で試験しました。AEEMC法は、ケースの中でコンタクトレンズを3種類の細菌、2種類の真菌、および有機土に3~10分間さらして、その後にケースをMPSで満たすというものです。4時間または6時間後にMPSを除去し試験を行いました。コンタクトレンズケース内にコンタクトレンズが存在することで、時間とともにMPSの有効性が減少していきました。特に真菌で顕著でした。しかし、その中ではOptiFree PureMoistは最も効果的でした。

Effect of Care Solutions on Contact Lens In-vivo Wettability at Insertion and End of Day
レンズ装着時および1日の終わりのレンズの水濡れ性におけるケア用剤の影響
Manal Gabriel (Alcon Research Ltd, USA)

コンタクトレンズ前面の涙液のインターフェロメトリを用いて、装用8時間後のシリコーンハイドロゲルの表面の水濡れ性を評価しました。レンズ装着前に、ブリスターパック内の保存液または5種類のMPS (OptiFree EverMoist、OptiFree Express、 Complete、 ReNu、 Biotrue)の内のいずれかに浸漬しました。Biotrue、OptiFree Express、Completeに浸漬したレンズが最も水濡れ性が良好でした。

Effect of Lens Care System on Silicone Hydrogel Contact Lens Wettability
シリコーンハイドロゲルレンズの水濡れ性に対するレンズケアシステムの影響
Cecile Maissa (OTG Research & Consultancy, UK)

対象に3ヶ月間シリコーンハイドロゲルレンズを通常の交換スケジュールで装用させ、その間は過酸化水素消毒(Clear Care、37例)あるいはMPS(Renu Fresh、37例)を用いてケアさせた。水濡れ性の評価にはTearScopeを用いました。その結果、過酸化水素消毒剤を用いたレンズのほうが3ヵ月後の水濡れ性が有意に良好であることが示されました。

Efficacy of Multi-purpose Solutions in Removing Cholesterol Deposits from Silicone Hydrogel Contact Lenses
シリコーンハイドロゲルレンズに付着したコレステロール除去に関する多目的用剤の効果
Hendrik Walther (Cornea and Contact Lens Research Unit (CCLRU), Australia)

6種類のシリコーンハイドロゲルレンズを放射性標識コレステロールを含んだ溶液に7日間浸漬させた。その後、5種類の多目的用剤(OptiFree PureMoist、Renu Fresh、Revitalens、Biotrue、SoloCare Aqua)を用いてこすり洗いとすすぎを行った。そして、6時間浸漬し、コレステロールの付着について試験しました。OptiFree PureMoistのみが有意にコレステロールを除去していました。

Establishing a Standard Method for Evaluating Efficacy Against Acanthamoeba
アカントアメーバに対する効果の評価における標準法の確立
Monica Crary (Alcon Research Ltd, USA)

アカントアメーバに対するMPSの試験をする際に、多くの要素が効果に影響を与えます。たとえば、アカントアメーバを準備するための方法(細菌飢餓条件か純粋培養)、採取までの時間、サンプルの純度、シストと栄養体の比率、潜伏期間などです。発表者たちはアカントアメーバの数を最大化する方法を推奨し、栄養体は最低7日間、シストは最低14日間培養することを推奨しました。MPSの有効性の試験を適切に行うために、これらの要素を注意深く管理する必要があります。

Evaluation of Surface Water Characteristics of Novel Daily Disposable Contact Lenses Using Refractive Index Shifts after Wear
装用後の屈折率変化を用いた、新しい1日使い捨てコンタクトレンズの表面の水分特性の評価
Jeffery Schafer (Bausch + Lomb, USA)

レンズ表面の屈折率を測定することにより、レンズ表面付近の含水率の変化を測定しました。試験に用いたコンタクトレンズは、Biotrue OneDay (B+L、含水率78%)、Acuvue (Vistakon、含水率 58%)、Ciba Dailies Total 1 (Alcon)の3種類です。チバビジョンのレンズはレンズ内部の含水率が33%で表面が80%というように徐々に含水率が変化する新しい素材です。15分レンズを装用した後、チバビジョンのレンズはレンズ表面の含水率が80%から33%まで低下していました。他のレンズの含水率に変化はありませんでした。

In-Vivo Wettability of Contact Lenses Worn in a Low Humidity Environmental Exposure Chamber (LH-EEC) Show Comparable Changes to Traditional Field Trials
低湿度室で装用したコンタクトレンズの水濡れ性は通常の装用試験における変化と同等である
Fiona Soong (Inflamax Research, Canada)

湿度、温度、気流を管理された低湿度室でコンタクトレンズを3時間装用した後、従来素材のソフトコンタクトレンズおよびシリコーンハイドロゲルの両方のコンタクトレンズ表面の水濡れ性は有意に低下しました。この変化は通常の方法で8時間装用したときの変化と同等でした。低湿度室はコンタクトレンズの乾燥やドライアイを研究する際に有効な手段であると考えられます。

Risk Factors for Contact Lens Related Microbial Keratitis in Singapore
シンガポールにおけるコンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の危険因子
Chris Lim (University of New South Wales, Australia)

2009年から2010年にシンガポールで発生した58例の細菌性角膜炎と比較対照としての152例の健常眼をレトロスペクティブに調査しました。次の要因は細菌性角膜炎の危険性を有意に増加させました。

  • コンタクトレンズを装用したままシャワーを浴びる
  • AMOのCompleteを使用する(過酸化水素や他のMPSと比較して)次の要因は細菌性角膜炎の危険性を有意に低下させました。
  • レンズを取り扱う前に手を洗い乾燥させる
  • 中国人(マレー人と比較して)

Secretory Phospholipase A2 Type IIA Levels across the Wear Cycle: Response to Lens Age or Indications of CL Intolerance
レンズ装用サイクルにおける、分泌性ホスポリパーゼA2タイプⅡAレベル: レンズ使用期間あるいはコンタクトレンズ不耐性の兆候への反応
Walter Nash (Alcon, USA)

他の研究で、訴えのあるコンタクトレンズ使用者の涙液中の分泌性ホスポリパーゼA2タイプⅡAレベルの上昇が報告されています。しかし、この研究では訴えのあるコンタクトレンズ使用者と訴えのない使用者の両方で28日間の装用後に装用前と比較して何の変化も認められませんでした。

Selenium Contact Lens Hydrogel Polymer: Inhibition of Bacterial Biofilm Formation
セレン・ソフトコンタクトレンズ素材: 細菌のバイオフィルム形成の抑制
Phat Tran (Texas Tech University, USA)

セレンを含んだ素材のソフトコンタクトレンズと比較対照の通常のソフトコンタクトレンズを黄色ブドウ球菌溶液中で24時間培養させた後、細菌バイオフィルムについて調べました。セレンを含むソフトコンタクトレンズはバイオフィルムの形成を完全に抑制していました。

Selenium Covalently Incorporated into the Polymer of Contact Lens Case Material Inhibits Bacterial Biofilm Formation
コンタクトレンズケースの素材に共有結合されて取り込まれたセレンが細菌バイオフィルムの形成を抑制
Ted Reid (Texas Tech University, USA)

銀を含んだコンタクトレンズケースは細菌の繁殖を抑制します。しかし銀は同様に細菌の繁殖を抑えるセレンと比較して、いくつかのデメリットがあります。この研究では、セレンを含んだコンタクトレンズケースが使用8週間後でも緑膿菌などの3種類の細菌の繁殖を完全に抑制しました。

The Antimicrobial Efficacy of Human Tear Proteins after Repeated Exposure to Contact Lens Solutions
コンタクトレンズ用剤に繰り返し暴露された涙液の抗菌性
Biance Price (University of Manchester, UK)

Biotrue MPS (B+L)は、自然な涙液タンパク質との相乗効果により抗菌作用が向上するように設計されています。この研究では、室温で4時間浸漬した後にBiotrueがタンパク質の抗菌作用を向上させ、数日間その効果が持続することを示しました。抑制しました。

Traveler's Contact Lens Associated Keratitis (TCLAK): Establishing Preventative and Treatment Guidelines to Close a Gap in Ophthalmic Care
旅行者のコンタクトレンズ角膜炎(TCLAK): 眼科的処置のギャップを埋めるため予防法と処置のガイドラインを制定
Fallon Ukpe (Duke University, USA)

旅行するコンタクトレンズ使用者に感染性角膜炎の特異な危険性があることを示しました。そして、旅行者コンタクトレンズ角膜炎(TCLAK:Traveler's Contact Lens Associated Keratitis)と名づけました。残念なことに、現在の臨床ガイドラインや患者教育資料の中ではその問題に十分触れられていません。そこで彼らは、TCLAKの危険性を低減させるための患者と医師向けのガイドラインを制定しました。

ポスターセッション: 角膜と白内障

Geomapping Ophthalmomyiasis Using Goggle Earth: Utilizing Geographic Information Systems in Ophthalmology
Google Earthを用いた目ウジ病の地図化: 眼科領域における地理情報システムの利用
Omar Ozgur (New York Eye and Ear Infirmary, USA)

目ウジ病は、眼組織にはえの幼虫が侵入する病気です。目ウジ病の臨床例が報告されている409の記事を調査しました。その中で188の記事には地理的情報が含まれていました。それをGoogle Earthに取り込ませて、その疾患の地理的傾向を調べて解析できるようにしました。たとえば、症例の21%はリビアで発生し、12%はイタリア、11%はインドで発生しており、各国の川に沿って発生しています。

National Survey of Pellucid Marginal Corneal Degeneration in Japan
日本におけるペルーシド角膜縁変性症の調査
Jun Shimazaki (Tokyo Dental College, Japan)

ペルーシド角膜縁変性症と診断された320症例(27施設)に関して、日本角膜学会の全会員に送ったアンケート調査の結果を報告しました。

  • 75%が男性
  • 平均年齢39歳
  • 32%は片眼性
  • 31%はアレルギー
  • 61%がハードコンタクトレンズで矯正
  • 18%ソフトコンタクトレンズで矯正
  • 51%が矯正視力1.0が可能
  • ほとんどが角膜トポグラフィで診断

Prevalence of Corneal Astigmatism in a Cataract Population
白内障患者の角膜乱視の割合
David Curragh (Northern Ireland Medical and Dental Training Agency, UK)

941例1105眼の記録を調査し、白内障術前の角膜乱視発生率を調べました。

  • 角膜乱視度数の平均=1.13±0.91D
  • 25.6%が0.5D以下
  • 38%が0.51D~1.00D
  • 17.5%が1.01D~1.50D
  • 12.5%が2.00D以上
  • 7.24%が2.50D以上
  • 3.71%が3.00D以上
  • 2.53%が3.50D以上

来月のニュースレターでは、ドライアイと眼表面に関するARVOセッションのまとめを行う予定です。

(翻訳: 小淵輝明)

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