強膜レンズ(2)

Volume 9, No. 9

SCLERAL LENSES 2

強膜レンズ2
先月号のニュースレターから強膜レンズのシリーズを始めました。強膜レンズは、今のハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズよりも前に開発されたものですが、最近までほとんど処方されることがありませんでした。1980年くらいまで、ハードコンタクトレンズが多く処方されていて、1980年以降はソフトコンタクトレンズが増えてきて、今ではほとんどがソフトコンタクトレンズです。しかし、最近少しずつ強膜レンズへの関心が高まってきています。強膜レンズはガス透過性ハードコンタクトレンズの素材で出来ていて、角膜よりも大きく、強膜に部分的あるいは全体的に接触しています。それが”強膜“レンズの名前の由来です。

参考
この記事では、Dr. Eef van der Worpの著書「A Guide to Scleral Lens Fitting」を基にして強膜レンズの基本的な原理について説明します。Dr. Worpはオランダのマーストリヒト大学の研究者です。この本は、各国語に翻訳されたものがパシフィック大学を通じて無料でダウンロードできます。日本語もあります。

Dr. Eef van der Worpの著書「A Guide to Scleral Lens Fitting」

復習
先月号では、強膜レンズの基本的な原理について説明しました。酸素を良く通すハードコンタクトレンズ素材が開発されるまで、強膜レンズは装用できるようなものではありませんでした。角膜に供給される酸素を完全に遮断し、ほんの数時間の装用でも角膜は極度の酸素不足に陥りました。しかし今では高酸素透過性素材がありますので、直径の大きな強膜レンズでも酸素不足になることなく装用することが出来ます。その上、最新のレンズ製造技術によって、より良いレンズデザインも可能になりました。強膜レンズは、通常のハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズよりも次の点で優れています。

  • 快適な装用
  • 大きく安定した光学部
  • 角膜の保護

ほとんどの人には、通常のハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズで上手く処方する事ができます。しかし、通常のハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズ、眼鏡では快適に装用できなかったり、よく見えなかったりするケースもあります。そのような場合に強膜レンズが最良の選択になることがあります。次のようなときに強膜レンズが処方されます。

  • 進行した円錐角膜や屈折矯正術後などの不正な角膜
  • 極度の屈折異常、強度乱視など
  • 重度のドライアイ
  • 前眼部の保護

強膜レンズは、直径やレンズが接触する眼の部位などにより、大きく3つに分類されます。

  • 強角膜レンズ: 直径が12.5~15.0mm 眼と接触するランディングゾーンは角膜と強膜の境界付近にあります。
  • ミニ強膜レンズ: 直径が15.0~18.0mm ランディングゾーンは完全に強膜だけに接しています。
  • ラージ強膜レンズ: 直径18.0mm以上

レンズの中央にある光学部にはレンズパワーが入っていて、通常のハードコンタクトレンズよりもかなり大きいです。光学部は瞳孔よりも大きく、すばらしく安定した視力が得られます。また、ハードレンズでもありますので、角膜乱視や角膜の変形による高次収差も矯正する事ができます。光学部と周辺部の間には移行部があり、移行部を調整することでレンズフィッティングおよび角膜とレンズの間の隙間を調整することができます。

強膜レンズ処方の基本原理

サジタルハイト
強膜レンズの処方方法や原理は通常のハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズとは異なります。ハードコンタクトレンズを処方するとき、ケラトメーターの値などを参考にして角膜のカーブにベースカーブを合わせるように処方します。ソフトコンタクトレンズの場合には、一番良く処方されているベースカーブを選択して装用させ、レンズの動きを見て評価します。強膜レンズでは、レンズ内面の高さ(サジタルハイト)を角膜の高さに合わせるように処方します。サジタルハイトは、図1 に示したようにベースカーブと光学部の直径によって決まります。アメリカの強膜レンズ処方者の多くは適切なフィッティングを得るためにトライアルレンズを使います。適切なフィッティングとは、角膜とレンズの間に適切な空間を作るということです。フィッティングの基本的な考え方は、角膜に対してスティープにするとかフラットにするとかということではなく、サジタルハイトを調整して、角膜とレンズの間の隙間を増やしたり減らしたりというように合わせます。

サジタルハイトを調整例

最初にすること
強膜レンズは注文できる直径に幅がありますが、最初は15.0mm以下の直径の強角膜レンズから始めるほうが良いでしょう。カスタマーサポートのある強膜レンズのメーカー、数社に連絡して、最初はそのうちの1種類のレンズを使うことをお勧めします。そして、トライアルレンズセットを注文して、フィッティングガイドに従って最初に患者に装用させるトライアルレンズを選択して下さい。適切なレンズを選んだら、そのレンズの内面をフルオレセインで染めた生理食塩水で満たして、患者の目に装用してください。

フィッティング評価
レンズが落ち着くまで約30分間待った後、角膜とレンズの間に出来た隙間を次の3つの方法で評価します。

  • レンズを前方から観察する総合的なフルオレセインパターン
  • スリット光を細くして観察するレンズ後面の涙液層の厚さ
  • レンズ下に気泡があるか

正面から見たとき、フルオレセインパターンは角膜全体に薄い均一な緑色の層として観察されるでしょう。角膜中央でレンズが角膜と接していた場合、レンズと角膜が接触しないように別のレンズに変更する必要があります。中央部のフルオレセインがかろうじて観察できる程度の厚さでしたら、50μm程度の厚さになっています。
多くのドクターは100~300μmの厚さを推奨しています。レンズ下の涙液層の厚さを評価するためにスリット光を細くして斜め45°から当てて、角膜の厚さ(約500μm)やレンズ自体の厚さを基準にしてレンズ下の涙液層の厚さを評価します。フェリス州立大学のウェブサイトに、レンズと角膜の50~600μmの隙間の例が掲載されています。

レンズと角膜の50~600μmの隙間の例

円錐角膜では、隙間をもっと多く取る必要がありますが、全く接する事がないというのは難しいかもしれません。この場合には、軽く接するくらいは許容範囲とすべきでしょう。

隙間が大きすぎても良くありません。視力の質が低下しますし、光学部内に気泡が出来ることもあります。

ランディングゾーンとレンズエッジ
移行部は角膜輪部付近を覆い、デリケートな輪部の細胞を刺激しないように、輪部とほぼ平行になります。レンズの最周辺部はランディングゾーンです。この部分は角膜と全ての方向で均一に接している必要があります。スリットランプを使って、ランディングゾーンが強膜に不均一な圧迫を加えていないか確認します。たとえば、ランディングゾーンの内面が結膜や強膜を強く圧迫していたり、レンズエッジの浮き上がりが過剰だったりした場合、ランディングゾーンをスティープにするか、エッジの浮き上がりを少なくするように変更します。レンズエッジの下に気泡が発生している場合もレンズエッジの浮き上がりが過剰であることのサインです。逆にレンズエッジが結膜に食い込んでいるようでしたら、ランディングゾーンをフラットにしたり、エッジリフトを大きくしたりします。強膜レンズの動きは非常に小さいですが、プッシュアップしたときに滑らかに動くことを確認します。

追加情報
レンズ処方に関してもっと詳細に知りたい場合は、各レンズのフィッティングガイドを読むか、メーカーに問い合わせてください。さらに大きな直径の強膜レンズになると、トーリック周辺部デザインや周辺部カーブを四等分してカスタマイズしたレンズなどが必要になるかもしれません。

BASIC CLINICAL TECHNIQUE – CONFRONTATION FIELDS SCREENING 2

視野スクリーニング検査
先月号のニュースレターで患者の視野範囲を確認する簡単なスクリーニングテストについて説明しました。これは、周辺部視野の大きな欠損を見つけるための大雑把な検査ですので、最大でも視野欠損の50%しか発見できません。しかし、簡単な検査で数分で終わりますので、学生には全ての患者に対して毎回の検査時に行うように教えています。図2に4方向の正常な視野範囲を示しました。

図2. 正常な視野の角度(右眼)

鼻が大きかったりすると、鼻の方向の視野が狭くなることがあります。あるいは彫が深い患者は、額や眉毛が邪魔になり上方の視野が狭くなることもあります。そのように顔の形などによって視野が狭くなっている患者をどう扱うべきでしょうか。次の様な方法で検査するように学生には説明しています。それは、患者にはまっすぐ見てもらいながら顔の角度を視野が制限されている方向に傾けてもらい、再測定します。

たとえば、先月書いたような方法で通常どおりに検査します。そして、上方の視野が30°だったとします。

  • 患者に顔を30°上方に傾けるように指示します。
  • 真っ直ぐ前を見続けるように指示します。
  • 反対の眼を遮閉して、視標を上方の周辺部から中央に向かって、視表が見えるようになるところまで動かします。視線から、視表が最初に見えたところまでの角距離を記録します。

図3

この方法は、額や眉毛を上方にずらして、上方の完全な視野範囲を測定するためのものです。上方の視野が正常であるのに額や眉毛で制限されていた場合、上方の視野範囲は正常な視野範囲程度まで大きくなります。この方法は、他の方向でも同様に使う事が出来ます。

来月のニュースレター
ニューオーリンズで開催された、アメリカのオプトメトリ学会(American Academy of Optometry)に参加してきましたので、来月はその学会の報告をしたいと思います。

(翻訳: 小淵輝明)

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