近視に関する研究(4)

Volume 8, No. 10

CONTACT LENS & HEALTH NEWS

CooperVisionがWorld Sight Dayをサポート
CooperVisionは10月、患者にWorld Sight Dayへの寄付を行う機会を提供しています。CooperVisionのコンタクトレンズを購入した患者は5ドルのキャッシュバックを得るか、World Sight Dayへ5ドルを寄付するかを選ぶことができます。寄付を選択した場合にはCooperVisionも同額の5ドルを寄付します。このキャンペーンは全体で10,000ドルを限度にしています。World Sight Dayは、世界中のアイケアが受けられない人々にアイケアが受けられるように促進する世界的なプログラムです。ニュースレター(2014年1月号 )にも紹介したことがあります。

CooperVisionがAFOSをサポート
Armed Forces Optometric Society ( AFOS )は、米軍のオプトメトリーの教育や専門的な発展を促進する組織です。米軍へのサポートや志願を表明する努力をしている中で、CooperVisionはAFOSの企業スポンサーになっています。

10月18~21日、シカゴでAmerican Academy of Ophthalmologyの学会が開催されます。

11月12~15日、コロラド州デンバーでAmerican Academy of Optometryの学会が開催されます。

ARVO2015の締め切り
来年のARVOは5月3~7日にコロラド州デンバーで開催されますが、研究発表などを希望される先生方は、抄録提出の締め切りが12月5日ですので、それまでにARVOのウェブサイトからお申し込みください。

Global Specialty Lens Symposiumが1月22~25日にラスベガスで開催されます
Global Specialty Lens Symposiumは、アメリカのコンタクトレンズに関わっているアイケアプロフェッショナルのための最大級の学会の一つです。この学会には多くのオプトメトリストが参加します。
学会ウェブサイトからオンラインで登録ができます。事前登録は12月15日までとなっています。

MYOPIA RESEARCH - ORTHOKERATOLOGY

今回で近視の研究に関する記事は4回目になります。まず、これまでの3つの記事を復習しておきましょう。

近視の疫学 (6月号)
近視は世界中で視覚障害の主要な原因の一つになっています。特にアジア諸国では増加しているようです。また、近視は患者自身、家族、社会にとって大きな負担になっています。近視に対する光学的な矯正、たとえば眼鏡、コンタクトレンズ、屈折矯正術に関することなどは眼科業務にとっては日常的な業務です。しかし最近まで、小児の近視進行を効果的に防ぐ手段はありませんでした。

新しい研究 (8月号)
動物研究などにより、小児の近視の原因の理解は進んでいます。新生児の小さな眼球は遠視の傾向がありますが、成長するにつれて、目の長さは伸びて遠視が弱くなっていきます。現在の科学者たちは網膜上の像のボケが眼の成長を促すと考えています。遠視性のボケ(図1-.a、網膜より後方に焦点を結びます)は眼球の成長を促し、眼軸長を伸ばします。反対に近視性のボケ(図1-b、網膜の手前に焦点を結びます)は眼球の成長を抑制して眼軸長の伸びが遅くなります。眼が成長して正視に近づいてきたら、それ以上成長し続けないことが望ましいことです。しかし、その時に遠視性のボケがあれば、眼球は成長しすぎてしまい近視になってしまいます。近視性のボケがある場合には、近視が進行しすぎることを遅らせることができます。また、網膜周辺部のボケのほうが網膜中央部のボケよりも影響が大きいことが研究によりわかってきています(図2)。

マルチフォーカル ソフトコンタクトレンズ (9月号)
理想的には、近視を矯正した時に網膜中央部では網膜上に焦点を結び、網膜周辺部では近視性のボケがある状態が望ましいです。網膜中央部で焦点が合っていれば、鮮明な見え方になり、網膜周辺部の近視性のボケが近視の進行を遅らせます。マルチフォーカルソフトコンタクトレンズを使用することによって、そのような状態を作り出し、小児の近視進行を遅らせることを示す研究がいくつかあります。

オルソケラトロジー
今月は、オルソケラトロジーが小児の近視進行を抑制する効果的な方法であることを示した研究についてまとめます。オルソケラトロジーでは、患者は寝ている間にハードコンタクトレンズを装用し、角膜の形状を変化させて近視を矯正します。朝、レンズを外した後、変形した角膜形状が数時間持続します。オルソケラトロジーがうまくいった症例では、眼鏡やコンタクトレンズを装用することなく、ほぼ1日中正視の見え方が得られます。約-4D以下の弱い近視ではオルソケラトロジーによって矯正することができます。

オルソケラトロジーは、1960年代に最初に試みられていますが、角膜の酸素欠乏などの有害事象などによって、うまくはいかなかったようです。

  • 現在ではハードレンズの素材は酸素透過性であり、就寝時にも装用することができます。
  • リバースジオメトリーデザインにより効果的に角膜を変形させることができます。
  • 角膜トポグラフィにより正確に角膜形状が評価できます。

オルソケラトロジーは、アメリカをはじめ多くの国々でコンタクトレンズを専門としている医師により処方されています。処方の対象は子供と大人の両方です(日本のガイドラインでは20歳以上となっています)。2000年代の初めに、オルソケラトロジーによって矯正された小児の近視進行が遅くなっていることが見つかりました。理論的には、オルソケラトロジーはマルチフォーカルソフトコンタクトレンズのような理想的な近視矯正の状態を作りだします。つまり、網膜中央では焦点が合い、周辺部では近視性のボケがあるのです (Queiros OVS 2010, Aller OVS 2013, Smith OPO 2013) 。2005年以降、6つの研究がオルソケラトロジーにより30~50%程度近視の進行を抑制することを示しました。

1. 香港スタディ (Cho, 2005年)
2005年までにもオルソケラトロジーによって小児の近視の進行が明らかに抑制されていることを示した臨床報告がいくつかありましたが、Dr. Pauline Choが書いた記事(Cho Curr Eye Res 2005)が最初の質の高い学術研究です。香港の小児35人にオルソケラトロジーを処方し、過去に眼鏡の処方を受けた35人の小児のデータと比較しました。2つのグループの属性は類似したものとしました。眼球の成長を経過観察するために、眼軸長と硝子体腔の深度を超音波で6か月ごとに測定しました。眼鏡を装用しているグループは屈折異常の変化を直接測定することができますが、オルソケラトロジーのグループはレンズを外しても近視が矯正されていますので、屈折異常を正しく測定することができません。したがって、眼軸長の変化を測定するという間接的な方法で経過観察するしかないのです。科学的な研究によって進行している近視は眼軸の伸長によるものであることがすでに示されています。オルソケラトロジーは角膜を圧迫して平坦化させます。平坦化することで眼軸長が短くなることもあるかもしれません。そのことも考えて、硝子体腔の深度も同時に測定しています。硝子体腔は角膜の変化の影響を受けませんので、眼軸の成長をそのまま表します。表1にこの研究と他の研究の結果をまとめます。

2年経過時にオルソケラトロジーのグループが眼鏡装用グループよりも平均で46%程度近視の進行を遅らせていることがわかりました。これは、眼軸長と硝子体深度の両方が伸びていました。オルソケラトロジーグループの近視の進行は1年で -0.39D、眼鏡装用グループは-0.75Dでした。

2. USAスタディ (Walline, 2009年)
オルソケラトロジーによる近視進行抑制に関する2つめに紹介する研究は、Dr. Jeff Wallineによる2009年の研究( Walline Br J Ophthalmol 2009 )です。Dr. Wallineは、Dr. Choの結論をより確立するために、試験デザインの改善を行いました。Dr. Wallineは、小児28名にオルソケラトロジーを処方して、過去の研究から単焦点ソフトコンタクトレンズを装用していた小児のデータと比較しました。この研究でも眼軸長と硝子体腔深度を定期的に測定して、2年間継続後にデータの比較をしました。試験結果によると、オルソケラトロジーグループは単焦点ソフトコンタクトレンズのグループと比較して約56%近視の進行が遅くなったことがわかりました。

 

3. 日本スタディ (Kakita, 2011年)
2011年、Dr. Kakitaは日本の小児を対象に同じ問題について調査しました。Dr. Kakitaは試験デザインのいくつかを改善させました。たとえば、オルソケラトロジーが眼軸長の変化に影響を及ぼさないようにするため、オルソケラトロジーレンズの装用を始めて3か月間待ってから眼軸長の測定を開始しました。オルソケラトロジーによる角膜の変化の大部分は最初の数週間で終わります。この研究では新しい測定機器、IOLマスターを使って眼軸長を測定しています。また、オルソケラトロジーグループと同時に眼鏡装用した小児も試験に参加するようにさせましたので、過去データを使ったこれまでの研究よりも条件の良い研究になっています。2年間の経過観察時にオルソケラトロジーグループの42名と、眼鏡グループの50名が試験を完了しました。この研究ではオルソケラトロジーグループの近視進行は眼鏡装用グループと比較して約36%遅くなっていました。

4. 日本スタディ(Hiraoka, 2012年)
Dr. Kakitaの研究の共同研究者の一人であるDr. Hiraokaは、その試験を継続して、22名のオルソケラトロジー装用者、21名の眼鏡装用者について5年間経過観察しました。これまでの研究はすべて2年間までしかデータがありません。5年後の結果を見ると、オルソケラトロジーグループは眼鏡グループよりも約30%近視の進行が遅くなっていることがわかりました。相対的に見たオルソケラトロジーによる効果の大部分は最初の3年間で起こりました。その後は眼鏡装用グループの近視進行も遅くなり、オルソケラトロジーグループに近づいていきます。オルソケラトロジーによる小児の近視進行抑制効果は、オルソケラトロジーを始める年齢が若いほうが高くなると結論付けました。

5. スペインスタディ (Santodomingo-Rubido, 2012年)
Dr. Wallineの研究以外はアジアの子供が対象の試験です。アジアの人は近視の割合が高いこと、眼の他の特徴もヨーロッパ人とは異なることなどから、Dr. Santodomingo-Rubidoはスペイン人の小児を対象に試験( Santodomingo-Rubido IOVS 2012 )を行いました。この試験では29名にオルソケラトロジーを処方し、24名に眼鏡を処方して、Dr. KakitaとDr. Hiraokaの研究方法に準じて行いました。2年間の経過観察後に眼鏡装用グループと比較して約32%の近視進行抑制効果が確認されました。

6. 香港スタディ (Cho, 2012年)
Dr. Choの最初の研究は2005年に行われましたが、この新たな研究では他の研究から学んだことを取り入れ、試験方法をさらに改善しました。37名にオルソケラトロジー、41名に眼鏡を処方し、2年間経過観察を行いました。これまでのすべての研究でも示されたとおり、オルソケラトロジー装用グループは眼鏡装用グループと比較して近視の進行が有意に抑制(約43%)されていました。Dr. ChoはDr. Hiraokaの5年間の研究を含む過去の研究を再調査した結果、若いときに始めるのであれば、オルソケラトロジーは小児の近視抑制に最も効果的な方法であると結論付けました。Dr. Hiraokaの研究の最後の2年間で近視抑制効果が低減しているように見えるのは、効果が弱くなっているのではなく近視進行自体が年齢により遅くなっていることが原因です。眼鏡装用グループでも年齢により遅くなっていることが示されています。

結論
ここで紹介した6つの研究はすべて同じ結論を導いています。オルソケラトロジーを装用することにより近視の進行を1年で30~50%程度遅くすることができます。そして、近視の進行が最も早い若い時期にオルソケラトロジーを始めるとより高い効果があることもわかりました。表1に6つの研究結果を示しました。来月号では、太陽光と野外活動の近視進行抑制効果についてまとめます。

参考文献

  1. Queiros A, Gonzalez-Meijome JM, Jorge J, Villa-Collar C, Gutierrez A. Peripheral refraction in myopic patients after orthokeratology. Optom Vis Sci 2010;87:323-9.
  2. Aller T, Wildsoet C. Optical control of myopia has come of age: or has it? Optom Vis Sci 2013;90:e135-7.
  3. Smith III EL, Campbell MCW, Irving EL. Point-counterpoint. Does peripheral retinal input explain the promising myopia control effects of corneal reshaping therapy (CRT or ortho-K) & multifocal soft contact lenses? Ophthalmic Physiol Opt 2013;33:379-84.
  4. Cho P, Cheung SW, Edwards M. The Longitudinal Orthokeratology Research in Children (LORIC) in Hong Kong: A pilot study on refractive changes and myopic control. Curr Eye Res 2005;30:71-80.
  5. Walline JJ, Jones LA, Sinnott LT. Corneal reshaping and myopic progression. Br J Ophthalmol 2009;93:1181-5.
  6. Kakita T, Hiraoka T, Oshika T. Influence of overnight orthokeratology on axial elongation in childhood myopia. Invest Ophthalmol Vis Sci 2011;52:2170-4.
  7. Hiraoka T, Kakita T, Okamoto F, Takahashi H, Oshika T. Long-term effect of overnight orthokeratology on axial length elongation in childhood myopia: A 5-year follow-up study. Invest Ophthalmol Vis Sci 2012;53:3913-9.
  8. Santodomingo-RubidoJ, Villa-Collar C, Gilmartin B, Gutierrez-Ortega R. Myopia control with orthokeratology contact lenses in Spain: Refraction and biometric changes. Invest Ophthalmol Vis Sci 2012;53:5060-5.
  9. Cho P, Cheung SW. Retardation of myopia in orthokeratology (ROMIO) study: A 2-year randomized clinical trial. Invest Ophthalmol Vis Sci 2012;53:7077-85.

BASIC CLINICAL TECHNIQUES – PRELIMINARY TEST

ニュースレターの各号で臨床的な眼の検査方法について書いています。これまでの記事には、屈折検査の手順に関することを書いてきました。たとえば、

屈折は眼の総合検査の中で最も重要なもののひとつです。眼の総合検査には他にも多くの検査があります。Northeastern State University のオプトメトリー学科では眼の総合検査を行うのに次の手順で行うように学生に教えています。

  1. 主訴の聞き取り、問診
  2. 事前検査 (視力検査など)
  3. 屈折検査
  4. 細隙灯顕微鏡による前眼部検査
  5. 散瞳、毛様体麻痺
  6. 直像眼底鏡による眼底検査、眼底生体顕微鏡検査、双眼倒像検眼鏡検査
  7. 診断と治療計画
  8. 患者を指導して終了

上記の2は事前スクリーニングテストで、検眼の最初に行う簡単な視覚と眼に関するスクリーニングを行います。クリニックによっては、これらの検査をスタッフにやらせるところもあります。一般的に行っているのは次の検査です。

  • 視力検査
  • カバーテスト
  • 輻輳近点検査
  • 調節域検査
  • 眼球運動の評価
  • 視野スクリーニング検査
  • ヒシュベルグテスト
  • 瞳孔間距離の測定

来月のニュースレターでは事前検査の詳細について解説します。

(翻訳: 小淵輝明)

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