私たちは日常、涙の存在を忘れています。しかし、“ドライアイ”という言葉を聞くと、なんとなく自分の目が乾いているのではと感じたりします。一方、涙の役割は眼の乾きを防ぐだけではないようで、映画を見て“思わず涙が溢れてきた”とか、泣き過ぎて“もう涙も枯れてしまった”と言うこともあります。涙はどこから出てきてどこに流れていくのでしょう? 玉ねぎを切っている時、眼に沁みて出る涙。悲しい時だけでなく可笑しくて大笑いしても出る涙。そのメカニズムは一体どうなっているのでしょう。涙にまつわる色々なことを、これから数回に分けてお話しましょう。

涙の成分は“水分”、“油”それに“ムチン”の三つに大別され、それぞれ涙腺、眼瞼縁と結膜から分泌されます。“油”は“水分”の蒸発を抑え、“ムチン”は“水分”が流れないように糊の役割をしています。主成分である“水分”の味はしょっぱいので、塩分があるのは想像できます。しかし、塩分以外に涙には多くのミネラル、蛋白のほか、感染やアレルギーに対して有効な成分などが豊富に含まれている事をご存知ですか? そのこともあって、人工涙液とか涙の代わりになる良い目薬を作ることは至難の技になります。

実は20年ほど前になりますが、ムチンの粉末をデンマークから取り寄せ、これにゴマ油(眼にさほど悪さをしません)、生理食塩水を加え、ドレッシングのように振って使う目薬を作ったことがあります。ミネラルだけの成分より“涙”に近いので、重症の乾燥眼の方に有効でしたが、油成分の酸化が起こり、残念ながら製品にはなりませんでした。現在でも“涙”と同程度の目薬を作ることは極めて難しいといえます。言い換えると、“涙”は眼にとって理想的で、最高の目薬であり、なんとなく眼の表面に薄く乗っているようでも、極めて精巧な構造と重要な働きをしているのです。

眼球の外上方にある涙腺から分泌された“水分”は、瞬きで眼の縁からの“油”、それに結膜からの“ムチン”とミックスされ眼の表面を潤し、内側にある涙点から鼻の中に排出されます。瞬きを繰り返すことでゴミや眼脂を洗い流し、角膜表面に栄養分を補給しながらクリーニングしています。これらを一瞬の間にするのですから、まことに素晴らしい働きと言えますね。 ちなみに、“一瞬の間”とはどれぐらいの時間だと思いますか? 答えは、0.3秒です。
閉じるのに0.1秒、開くのに0.2秒、計0.3秒。“一瞬の間”に一働きしていることになります。

コンタクトレンズ装用中は瞬きによってレンズ下の涙液交換を期待しています。わずか0.3秒でそれができるか否か。そう考えると“少し丁寧な瞬きをしてみようかな”と思いませんか?

監修:医学博士 﨑元 卓(フシミ眼科クリニック)

マガジン・ニュースへ