GLOBAL SPECIALTY LENS SYMPOSIUM REVIEW, PART 3
GLOBAL SPECIALTY LENS SYMPOSIUM(国際特殊レンズシンポジウム)、その3
3月と4月のニュースレターで、今年の1月22日から25日にラスベガスで開催されたGlobal Specialty Lens Symposium (GSLS)の最初の3日間の内容について書きました。これはアメリカで最大級のコンタクトレンズに関する学会で、日本を含む36各国からおよそ600人が出席しました。来年の学会はラスベガスのCaesar ’s Place hotel and casinoで1月21日から24日まで開催される予定です。今月はこの学会の最終日の発表から興味深いものをいくつか紹介して、展示ホールで紹介されていた製品についても書きたいと思います。
今回の学会での主なトピックは、強膜レンズ、近視進行抑制、オルソケラトロジー、マルチフォーカルコンタクトレンズなどです。前回までの2回のニュースレターで次の講演についてまとめました。
- 世界のコンタクトレンズ業界のまとめ
- 強膜レンズの処方における問題点
- ソフトコンタクトレンズのカスタマイズ
- 近視進行抑制のためのソフトコンタクトレンズ
- 規制と疫学的問題
- 近視進行抑制の未来
セッション13
老眼のジレンマは解決できるのか?
1月24日 土曜日 16:00~17:00
現在では処方成功率が高く、患者満足の得られるデザインのマルチフォーカルコンタクトレンズが多く出回るようになりましたが、アメリカでは老眼年齢のコンタクトレンズユーザーのうち50%以下にしかマルチフォーカルコンタクトレンズが処方されていません。写真のDr. Amy Dinardoは、マルチフォーカルコンタクトレンズを患者に説明するためのユーモラスなビデオを紹介しました。モノビジョン処方よりもマルチフォーカルソフトコンタクトレンズのほうが機能的に優れていることを示す研究がいくつもあるにもかかわらず、マルチフォーカルソフトコンタクトレンズを勧めるドクターがまだまだ少ないのが現状です。マルチフォーカルコンタクトレンズユーザーにはコンタクトレンズの上にメガネを使用する必要がある人もいますが、このくらいは許容範囲です。マルチフォーカルソフトコンタクトレンズのデザインには光学部の中央が遠用度数になっているものも近用度数になっているものもあります。Dr. Dinardoは、瞳孔の小さい患者には、光学部の中心が近用になっているレンズのほうが良好な近見視力が得られると説明しました。
Dr. Stephanie Wooは、新しいハイブリッドマルチフォーカルコンタクトレンズ、Duette Progressiveについて説明しました。このレンズは2014年に発売されたもので、角膜乱視や角膜不正乱視の患者にとっての選択肢になります。老視と乱視の両方を同時に矯正できるレンズは現在ほとんどありません。メーカーは、インターネット上のコンタクトレンズ計算ソフトを使用して、屈折度数、加入度数、ケラト値、利き目などのデータから経験的にこのレンズの処方をするように勧めています。このレンズは中央部がガス透過性ハードコンタクトレンズで出来ていて、その周辺にシリコーンハイドロゲル素材が結合されています。Duette Progressiveはハードコンタクトレンズ素材領域の中央部3mmが近用度数で、その周辺の7mmが遠用度数になっています。光学部がハードコンタクトレンズ素材ですので、はっきりした視力が得られ、周辺のソフトコンタクトレンズ素材によって快適な装用感も得られます。Dr. Wooは、強膜レンズも老視に対する選択の一つとしていました。特に、通常のソフトコンタクトレンズやハードコンタクトレンズでは満足な処方が出来なかった患者には強膜レンズは良い選択になります。強膜レンズ教育協会ではウェブサイトにその情報を掲載しています。
Dr. Ed Bennettは、老視用のソフトコンタクトレンズの需要が今後着実に伸びていくと予測しました。メーカーは新しくてより良いデザインや1日使い捨てのような新しい使い方のコンタクトレンズを開発するでしょう。マルチフォーカルのオルソケラトロジーや調節機能付のコンタクトレンズも将来開発されるでしょう。
セッション14
コンタクトレンズの不快感
1月25日 土曜日 8:00~9:00
コンタクトレンズ装用時の不快感、特に水濡れ性が低いことによる不快感はいまだに重大な問題であります。3人のドクターがこのことについて議論して、症例などの経験について説明しました。コンタクトレンズ装用時の不快感の解決策としては、1日使い捨てレンズへの変更がまず挙げられます。現在では乱視用を含む多くの1日使い捨てコンタクトレンズが販売されています。1日使い捨てコンタクトレンズにはいろいろな素材のレンズがあり、ある素材は他よりも装用感が良いということもありますが、装用感の良し悪しには個人差の要素が多く関係しています。使い捨て以外のレンズでは、過酸化水素消毒に変更すると装用感が向上する場合もあります。
セッション16
ソフトコンタクトレンズ処方の未来はここから始まる
1月25日 土曜日 10:00~11:00
このセッションでは、国際的な専門家が一般に考えられていることをいつくか提示し、それが本当かどうかについて解説しました。
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右の図に示したように、角膜と強膜の間にはっきりした結合部や溝のようなものがあるのですか?
⇒ No. ほとんどの眼では違います。
強膜と角膜の結合部は個人によって大きく異なりますが、強膜と結膜の結合部は平坦で連続した感じになっているものが多いです。 - ケラト値はソフトコンタクトレンズのフィッティングに役立つのか?
⇒ No. ケラト値よりも角膜のサジタルデプス(深さ)を指標にして考えたほうが良いです。
サジタルデプスは角膜の曲率半径と、角膜全体の直径をもとに算出されます。ソフトコンタクトレンズは、1種類の直径で1種類から2,3種類のベースカーブしかないというものが多くなっています。25%という高いドロップアウト率は、直径やベースカーブが選択できないことによるものが多いのではないでしょうか。 - パッケージに印刷されたベースカーブの値は正しいの?
⇒ No. 多くのレンズでは違います。
メーカーが何を基準にベースカーブの値を表示しているのかわからないことがあります。たとえば、頂点部分の後面のカーブのこともありますし、後面全体の近似球面のカーブであることもあります。ベースカーブが非球面になっているものは何をベースカーブとするのかを定義すること自体が難しいです。さらに言えば、実際のベースカーブは温度、含水状態、その他の要因によって変化してしまいます。ソフトコンタクトレンズのベースカーブはそれほど重要な値ではありません。コンタクトレンズのパッケージに表示するのはサジタルデプスのほうがより適しているでしょう - ソフトコンタクトレンズの動きを基準にしたフィッティング評価についてはいかがですか?
⇒ 瞬目時にソフトコンタクトレンズが0.1~0.4mm動くことが理想であるとした論文もありますが、下眼瞼を使ってレンズエッジをゆっくり押し上げるプッシュアップテストのほうがソフトコンタクトレンズのフィッティング評価には適しています。レンズはある程度自由に動いている必要はありますが、過度な動きは装用感不良の大きな原因になります。その場合には、レンズを動きの少ないものに変更する必要があります。
展示ホール
GSLSには大きな展示ホールがあり、コンタクトレンズメーカー、製薬会社、医療機器メーカーや研究機関、教育機関など56社が展示ブースを出展していました。私が見て興味深かったものをいくつか紹介します。
iPhoneのオートレフラクトメーター
カンザスシティにある新しい会社、Smart Vision LabsはiPhoneに取り付けて使用するシャック-ハルトマン型波面センサー、SVOneを開発しました。SVOneは小型の手持ち式オートレフラクトメーターとしても機能します。この機器は低次収差と高次収差の両方を測定することができますが、表示されるのは球面度数、円柱度数、円柱軸の低次収差だけです。発展途上国への人道的支援活動にすでに使用されています。SVOneは、世界中の人にとってのアイケアに非常に役立つものになるでしょう。
眼表面評価装置 Eye Surface Profiler (ESP)
オランダの会社、Eaglet - Eye は、新しいトポグラファ(角膜形状解析装置)を開発しました。角膜だけではなく、直径20mmの範囲で強膜の形状も測定することができます。干渉縞測定装置を用いて眼表面の250,000点を測定し、様々な種類のカラーマップで表示します。この機器は特に強膜レンズの処方に有用です。また、角膜を超えた範囲の眼表面の形状データが必要な場合に用いることができます。
Eyelike, ピンホールによる老視矯正
韓国のKoryo EyeTech Companyが開発したコンタクトレンズ、Eyelikeはピンホール効果を応用して老視を矯正するソフトコンタクトレンズです。このコンタクトレンズは、瞳孔上でピンホールとして働く薄い膜をレンズの内側に挟み込んでいます。同じようなアイディアによるピンホールメガネや角膜にピンホール効果を持たせた薄いディスクを埋め込むKARMA角膜インレイ(AcuForce社)などはこれまでにありました。Eyelikeは同じ原理を利用していますが、コンタクトレンズであることが新しいです。
新しい過酸化水素消毒システム
Bausch + Lombはソフトコンタクトレンズ用の新しい過酸化水素消毒システム、Peroxiclearを発売しました。AlconのCLEAR CAREは長年市場にある過酸化水素消毒剤ですが、Bausch + LombはPeroxiclear がCLEAR CAREよりもいくつかの点で優れていると主張しています。
- CLEAR CAREの弱点は、消毒剤をセットして蓋をするとすぐに中和が始まることです。消毒剤の濃度は急速に減少していき、消毒開始12分後には50%の過酸化水素が中和されています。
Peroxiclearは中和開始を遅らせるので、コンタクトレンズがより長い時間過酸化水素によって消毒されることになります。より強い消毒効果が期待できるということです。 - 高い過酸化水素濃度を維持するので、より早く消毒する事が出来ます。Peroxiclearは4時間で消毒と中和が完了します。CLEAR CAREは6時間かかります。
- 種類の湿潤剤が入っていますので、快適に装用する事が出来ます。
過酸化水素よりもマルチパーパスソリューション(MPS)のほうが一般的ですが、過酸化水素には次のメリットがあります。
- MPSでは全く効果がないアカントアメーバにも効果があります。
- 過酸化水素で消毒するときに出る泡はタンパクや付着物の除去に効果があるかもしれません。
- 化学消毒剤に対して過敏な患者に対しても刺激が少ないです。
実際にPeroxiclearを購入して、私自身でも使ってみました。ケアの手順は次のとおりです。
- レンズを眼からはずして、ケースにしまいます。
- レンズをPeroxiclearですすぎます。
- ケースに液を満たし、蓋をします。
- 4時間で消毒が完了します。
この手順にはこすり洗いが入っていません。その点でMPSよりも簡単な手順といえます。私の場合、MPSでケアしたよりもきれいで快適にコンタクトレンズを装用できるように感じます。次回のニュースレターまでにCLEAR CAREとの比較をしてみたいと思います。
BASIC CLINICAL TECHNIQUES ? Hirschberg Test - Part 2
内斜視と外斜視
ヒルシュベルグ法は斜視を見つける簡単な検査です。斜視では、片方の目の眼位がはずれます。たとえば、右眼に内斜視があるというのは、左眼が見ているものの方を向いていて、右眼だけが内側を向いている状態です。右眼に外斜視がある場合は、右眼だけが外側を向いている状態です。斜視の程度が大きい場合は眼位がずれていることがすぐにわかりますので、ヒルシュベルグ法で検査する必要はありません。斜視が小さい場合、普通に見ただけでは眼位に異常があるように見えないことがあります。そういったときにヒルシュベルグ法を行います。ドクターは患者の眼から50cmの位置にペンライトを両眼の間に持って座ります。患者に検査の間はペンライトの光を見るように指示し、患者の瞳孔領に映った明るい反射を観察します。両眼の瞳孔の位置を基準に、反射がどこにあるのかを比較することで小さな斜視も判断できるのです。
先月のニュースレターでは、斜視のない正常な眼位について説明しました。図1に正常な眼位の例を示します。眼位が正常であれば、光の反射は瞳孔の中心よりも0.25mm~0.5mm程度内側(鼻側)にあるように見えます。これは患者が眼の向いている方向(瞳孔軸)よりも見ている方向(視軸)が若干鼻側にずれているプラスのラムダ角を持っているということです。
図1.正常な眼位の例。プラスのラムダ角を持っているので光の反射は瞳孔中心よりも若干鼻側に位置しています。この図ではわかりやすくするために反射位置のずれを少し誇張して描いています。
(図はNSUと契約しているClinical Keyより)
内斜視
斜視がある場合、光の反射は両眼で同じ位置にあるということはありません。図2に右眼の内斜視の例を示します。ちょっと見ただけでは眼位がずれていないように見えますが、注意深く瞳孔を観察すると、右眼に映った反射が瞳孔の中心にある事がわかります。正常な眼位である左眼の光の反射は瞳孔中心よりも若干鼻側にずれますので、それと比較すると良くわかります。両眼の光の反射位置の違いが微妙な場合、正確にヒルシュベルグ法を行うには練習が必要であり、注意深く観察する必要があります。
図2.右眼が内斜視の例。左眼が正常な位置で右眼だけが若干鼻側にずれています。右目の光の反射が瞳孔中心にあります。
(図はNSUと契約しているClinical Keyより)
外斜視
図3に右眼の外斜視の例を示します。これも、ちょっと見ただけでは眼位がずれていることに気がつかないでしょう。注意深く観察すると、右眼の光の反射が瞳孔の鼻側の境界ぎりぎりのところにある事がわかります。正常な眼位の左眼の光の反射は瞳孔中心よりも若干鼻側にずれますので、それと比較すると良くわかります。左右眼で光の反射の位置が異なり、右眼のずれが大きい事がわかります。
図3.右眼が外斜視の例。左眼が正常な位置で右眼だけが若干耳側にずれています。右眼の光の反射が瞳孔の鼻側の境界ぎりぎりにあります。
(図はNSUと契約しているClinical Keyより)
右眼に本当に斜視があるかを確認するには、左眼を遮蔽します。そうすると、右眼は正常な眼位になるよう動きます。光の反射が瞳孔中心よりも若干鼻側になるように動くということです。斜視がない方の眼を遮蔽したら、斜視のほうの眼が正常な眼位になるのです。
ラムダ角がプラスでない場合や交代斜視の場合、ヒルシュベルグ法での斜視の診断は難しくなります。この記事では、ヒルシュベルグ法の原理を説明するために、最も簡単で一般的な方法について説明しました。
(翻訳: 小淵輝明)